20話
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「うえ〜い。おつかれ〜!」
バイトが終わると、予定していた友人三人で女子会。同世代の女子会といえば、可愛さと映えに重きを置かれている。仕事用のアカウント的にもそちらの方がいいのは、本音だ。
しかし本日はSNSに無頓着メンバーが集っているので、味とコスパ第一の大衆居酒屋が定石という、なんとも気楽な会だ。そもそも、毒抜きデトックス会なので、そちらのほうが良い。
良く焼けた鶏皮の串を頬張ると、皮身が甘辛いタレとよく絡んでおり、噛む度に弾む食感と味付けが楽しい。濃い味付けは、さっぱりとしたレモンサワーと良く合い止まらなくなるけれど、量は自分でセーブする。
今日のメンバーの一人はお馴染みのみはる、それから
本当はもうひとり合流する予定だったのだけど、彼女は夏休みから始めた半同棲状態が今でも続いているらしく、なんでも今日は彼氏と二人揃って風邪でダウンしたらしい。
みはるは〝やりすぎだよ、ヤりすぎ〟と揶揄っていたけれど、シンプルに体調が心配だ。あとでメッセージを送ってみようと思う。
「で、喧嘩の最後に彼氏は言うわけ。" みはの言い分も分かるけど、少しは我慢する立場にもなって欲しい "って。あーあ、最初はオラオラ系だと思ったんだけどなあ。隠れメンヘラ属性って、詐欺にあった気分よ」
「でも結局、彼氏の言う通りにしてあげるんでしょ、暫くは」
「今三日目だけど、もうしんどい」
「諦めんの早すぎ。それで?肝心の心雨はなにかいい事あった?」
千惺は新しい煙草に火をつけると、ゆったりと視線を向ける。千惺はわたしたちより四つ歳年上で、和泉さんやお兄ちゃんとも同い年。そのおかげか、一番大人びていると思う。
みはるの愚痴をしっかりと聞き終えた千惺は、わたしへと獲物を変えた。
「べ……べつに……何も!バイトに勤しんでました」
「今年も?勿体ない〜。みはる、なぁんで合コン組んであげなかったのよ」
「だって、蒼井ってば合コン組んでも来たがらないもん」
みはるはむっすりとした目を向けてくる。去年もそうだったし、みはると仲良くなるきっかけとなる一昨年の夏休み。長期休暇で帰省しない組だと告げると、鬼のように合コンに誘ってくれた。そのどれもを拒否したのはわたしだ。
「合コンって男と女との駆け引きと思いきや、女同士の殺伐とした心理戦が繰り広げられるかなり高度な飲み会ってイメージしかないから、わたしは無理」
この理由で合コンには参加した経験が無いけれど、みはるは案外こんなわたしを気に入ってくれて、サークルにも誘ってくれたし、サークルを通じて千惺とも知り合えた。
「その場のノリで、とか蒼井は無理そうだもんね〜。飲み会は絶対参加するくせに」
「こういうタイプがホストとか通ったらハマるのよ」
「あと宗教」
「結婚詐欺と宗教とホストクラブには気をつけます」
ありがたい提示には、しっかりと注意を払って乾杯で感謝を示す。
2人とも、彼氏がころころと変わるのに、悲しむことなく、都度楽しむスキルを持ち合わせている。
おそらく、みはるには既に勘づかれているだろう。現に、ちらちらと目が合っているので、潮時だろう。
喉元に詰まっているのは、
訳もなく咳払いし、膝の上で手のひらをにぎりしめる。
「……じつは、そもそもわたし、好きな人がいるんだよね」
わたしたちの間に漂う煙に紛れ、逃げ出しそうなボリュームだった。しかし二人にはしっかりと届いた様で、まんまると見開かれた瞳と出会う。
「やっぱり!前からそうだろうなっては思ってた!」
「そうなの!?」
「頑なに告白を断る理由って、好きな男が居る以外に何も無いもん!あの時話した、隣人でしょ?」
「隣人って?」
やはり、あの時……いやしかし、随分と前から気付かれていたみたいだ。みはるは憶測を語るような野暮はしていないのか、千惺は全く知らない様子だ。
渾身のドヤのあと、みはるは「とりま、乾杯しよ!」と、勝手にレモンサワーを注文してしまった。乾杯の合図は、もちろん「うえーい」である。大学生とは色んなシーンで挨拶のように「うえーい」と鳴く性質だ。
「恋愛脳ポンコツの蒼井に、みはるがアドバイスあげるね!」
話し下手なわたしとはちがい、簡潔に" 実は蒼井の隣人がお兄ちゃんの友達で、蒼井はその人のことがラブ "と千惺に説明したみはるは、上機嫌な調子で続ける。
「押し倒されたら相手に任せること。男の技量がわかる」
「え?」
「あと、キスが無理なら相性最悪だから、とりあえず1回キスしよ」
きす、きす……。
ぐるぐるとその二文字が頭の中で回る。そもそも、キスできるシチュエーションを、和泉さんと二度も作れる度胸がない。
わたしは……" 妹 "なのに……。
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