5話𖤐続・トラブルメーカー?
白くて華やかな香りがわたしを出迎える。
「ああ、良い香り〜〜……」
胃に存在するアルコールが浄化されていくような心地がした。……のは気の所為で、やはり、足はおぼつかない。
カードキーをかざして自動ドアをくぐり、エレベーターの元へ向かう。
「あれ〜……?エレベーター、おっそいなあ……」
全然降りてくる予感がしない。よく見たら【点検中】の張り紙がされていた。なんてことだ。しかし、お城の平和を守るためだ。致し方なく、階段を登るとする。酔い醒ましにも、そちらの方が良いと思えた。
「〜♪〜♪」
外だと余計に金木犀の香りが漂っていい気分だ。この時期は階段を使うのも悪くない。わたしの呑気な鼻歌と階段を登る足音が、モノトーンの壁に跳ね返って楽しいリズムとなる。
しかし、次第に不協和音が重なる。女性のきんとした声が混ざって、ただならぬ口調に固唾を飲んだ。
けんか……だろうか。それにしては、一人でずーっと喋ってるみたい。
ヤダヤダ、最近の若い人は、電車の中にベビーカーがあれば邪魔だとか、赤ちゃんの泣き声が聞こえるとうるさいだとか、レジでお年寄りがもたついていると早くしろだとか、ちょっとのことでカリカリしすぎだ。
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カツ、カツ、階段を上るにつれて鮮明になってゆく声。最悪なことに、わたしのお部屋の階から聞こえているようだ。嘘じゃん。こっそりと見ると、自分の部屋の奥に人影が見えた。
「……あれ?」
あきらかな違和感を覚えたその時、わたしの鼓膜を揺らしていた女性が振り向いた。
わたしより年上だろうその女性はとても綺麗な人で、おこっているのが勿体ないなあと、酔った脳内で、そんな第一印象を抱く。
「なに、あんたもランの女?」
しかも何だ、初対面なのに、意味不明なことを言わないで頂きたい。
「はい?わたしは、生まれた時から蒼井家の女ですよ〜」
「…………心雨?」
向こう側から、聞き覚えのある声が届いた。平坦な声は、わたしの名前を紡ぐ。
いや、そんなはずはない。聞き間違いに決まっている。
なるほど、酔い過ぎて耳まで酔ったらしい。それか、夢でも見ているのか。
「知り合いじゃん!サイッッッッテーーーー!!!」
しかしどうやら、そのひとにとっては現実らしく、ドン!と胸元を両手で押された隙に、上半身がふわりと傾く。するりと床から逃げていく足元。
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