2話𖤐トラブルメーカー?
個室に向かうと、中央で女子たちがあまり宜しくない顔をしていた。女の子の傍らには先程の彼がいる。視線が重なるとパッと散ってゆく瞳にうんざりしつつ、テーブルの隅っこにちょこんと座った。
「蒼井〜」と。雫のついたグラスを片手にやってきたのは、友人のみはるだ。この笑顔を見る限り、彼女もまた察したのだろう。
「さっきの人かっこよくない?また振ったの?」
「もちろん」
「だよね、蒼井は彼氏作りたくても
冗談めくみはるに、それなんだよなあ、と。ため息をひとつ吐き出した。こんな真面目に生きているのに、一体、どこをどう切り取ればそんなイメージが定着するのか。なんだかなあ、である。
個人的には、きちんと段階を踏んでお付き合いしたい、かなり真面目な方だと自負しているし、この考えを曲げるつもりもない。
見た目も、普段のわたしは今時の大学生らしさは全く無い。化粧も必要最低限。ただ、清潔感だけは心がけている。もう三年はハサミを入れていない長い黒髪は常にひとつに括っているし、Tシャツにジーンズと言った地味な装いである。見た目も中身も、軽い女とは断じて違う。
「でもねえ、蒼井ってほんっとに頭硬すぎ。も少し柔らかくなってもいいんだよ?クラゲみたいにさ」
「みはるは柔らかすぎね」
「にゃはは!でもさあ、蒼井みたいな美人がこの柔軟な時代に" 最初に付き合った人と結婚する "って頭かちこちな考えを持ってるの、かなり好感度だよ?
けらけらと笑うみはるは、スマホに人差し指をのせた。みはるの意識がスマホの画面に向かうので、わたしもようやくグラスを傾けた。からからに乾いた喉に、キティはあますぎる。
「ていうか待って。蒼井っておとめ座だよね?今月の恋愛運最強だってよ?これ、合コンするしかなくね?」
いや、さっきの話聞いてました?
と、言いたいけれど、みはるはひとの話を聞かない節があるので、何も言わない。
わたしの頭が恋愛にシフトチェンジしない要因はいくつかあるけれど、大学も三年になればいい加減、同世代の話題にも耐性がつく。
口を開けば惚れた晴れた、男と女の駆け引きばかり。それが恋愛から派生するものであればまだいい。
付き合ってもないのに、誰それが寝た、寝とられた、エトセトラ……という噂が、そこら中に蔓延っている。
ぐるりと見渡しても、あの辺は一度修羅場って、あの子とあの子とあの子は全員、
何が今の若者は恋愛に希薄、だ。わたしの周りではしっかりと男と女のにおいがするし、いい事もあれば嫌なことを聞かされ続けたおかげで、なかなか恋愛脳は目覚めない。
「仕事運は?」
なので、とりあえず話を塞き止めることにした。
恋愛に準ずるとこを訊ねられても、みはるが望む答えをじょうずに探せないと思ったの。
「んー……まあまあ。つか、大学生なのに仕事運気にするのおかしいから」
「大学生なのに仕事に興味があったら駄目かな」
「うん。蒼井の勤勉さと、ワーカホリックぶりはよく理解しているつもり」
「単にわたしはお金が好きなの」
常套句を並べると、みはるは盛大なため息を吐き出した。
「あのね、あんたね。そんなんじゃいつか変なビジネスに掴まるわよ。おねえちゃんだったら、月50は稼げるって怪しいおじさんに言われたら心揺れるでしょ」
ごくりと喉を鳴らして、わざと返事をずらした。
正直、揺れます。でも、わたしにだってプライドくらいある。
「大丈夫。男は信用するなって耳からタコが零れるくらい、言い聞かせられてきたので、心配は無用です」
「兄上ガード出た。でもねえ、正直美人の持ち腐れだし、しっかりしないと結婚詐欺とかにあいそうよ?現にあんな輩も現れてる事だし」
なんてことだ。二十年も彼氏がゼロだと、結婚詐欺の心配をされるらしい。完全に偏見だろう、それは。
もしも今月がわたしの恋愛運が一生に一度のチャンスだろうと、これまでが最悪だったので、いまさら良くなりました!と言われても、そうやすやすと喜べません。
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