第76話

どの辺に喜ぶ要素があったのだろう。新の目は喜色でキラキラと輝いている。追撃するみたいに私の隣にしゃがんでさらに距離を縮めてきたし。……なぜ。

 




「理由、知りたい?」


「まあ、うん」




 

渋々うなずくと、新が意気揚々と語り出した。

 




 

「このコーヒー豆はね、ある南米の富豪からのプレゼントなんだよ。前に、依頼料以外で欲しいものはないかって聞かれてね。冗談混じりにコーヒー豆って答えたら、定期的に送られるようになったんだ」


「無料で?」


「そう、無料で。俺がいいと言うまで送ってくれるんだって。ありがたいよね」


「そんなに感謝されるって……どんな依頼?」


 




反射的に聞いてしまい、すぐに後悔した。柔和な雰囲気を纏う新だからたまに忘れるけど、この人、元殺し屋じゃん。





「あ、やっぱり全然知りたくない。言わなくて大丈夫」




 

危険な色香で揺らめく青い瞳が恐ろしい。私が慌てて首を振ると、くすくすと笑われてしまう。





「俺に興味を持ってくれたみたいで嬉しい。気になることはどんどん聞いてよ」




 

やさしい声色と頬に落ちる許しを与えるようなキスに絆されそうになる。でもそれは、鵜呑みにしてはいけない言葉だと思った。新の過去は薄暗い。人里離れた場所で暮らしているのが何よりの証拠だ。



そこには見えない壁がある。だから、気軽に聞くことは、本当の意味では許されていない。

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