第64話

そして、カウンターの背面の壁には食品衛生責任者のプレートが貼ってあって、私はそこで初めて、新のフルネームを知った。




新・ジョン・テイラー。




日本と違う国のものとが混じり合った、不思議な響きを伴う名前だった。



本名、な訳ないか。おそらく新が表の社会で生きていくためにつけた偽名。それでも、新のフルネームを知れた私はとても満たされていた。




新って、Mr.テイラーなんだ。やばい、似合いすぎてだいぶ面白い。一度は呼んでみたいな。新はどんな顔をするんだろう?





「モネが起きたみたいだね」





私の名前が聞こえてきて、新を探しに来たことを思い出した。




新はカウンター席の端っこに座っていた。ノートPCで何かを操作したあと、耳からワイヤレスイヤホンを外している。



どうやらリモートで誰かと話していたらしい。家に戻ろうか迷っていた私に、新はやわらかく蕩けたまなざしで、おいでおいでと手招いてくる。



その甘美な誘いに、私はふらふらと引き寄せられた。

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