第63話

窓の外は闇で満ちている。

 



間接照明の暖かな光とストーブから漂う灯油の匂いが、感覚を麻痺させているのかもしれない。空気は冷たいのに、不思議と寒いとは感じなかった。



三角耳をピクピクと動かし、大きく伸びをしてみる。……うーん。だめだ。くさくさした気持ちは収まりそうにない。




せっかく昼夜逆転から抜け出せたと思ったのに、お昼寝したら眠れなくなるじゃんか。新、なんで起こしてくれなかったんだよ。



理不尽な小言を言ってやりたくても、新の姿が見えない。微かに声だけが聞こえてくる。私は体にかけられていた毛布を畳んで、新の声がする方向へと歩みを進めた。


 



居間の奥にあった扉は中庭へと続いていた。石畳が家から漏れた照明で淡く光っている。その光る石の上を数歩歩けば、自ずと例の蔵に辿り着けた。

 




「わあ……」

 




引き戸を開けると、そこは蔵とは似ても似つかない、カフェのような空間が広がっていた。



突然現れたレトロでおしゃれな雰囲気に圧倒される。




よく見ると天井が異様に高くて、扉と窓が真新しい。……蔵をカフェ風に改装したのかな。



私が脚を踏み入れたのはカウンターの裏側だった。食器棚、流し台、大きなオーブンが横一列に並んでいる。



突き当たりにはまた違うガラス扉がついている。奥に見えているシルバーの大きな何かは、たぶん、コーヒー豆を焙煎する機械だ。

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