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第62話

文香を見送った後、胸元に違和感を感じて眉を顰めた。私の心臓がいやなリズムで動き回っていた。




顔を合わせたのは数十分、会話なんてほんの数分程度だったというのに。久方ぶりに新以外の人間と接触したからか、動悸が止まらなくなる。




くたり。新の肩に頭を預けてしまう。



もう、疲れた。何もしたくない。

 




「モネ、寝室に行く?」


「……リビングがいい」




 

新は見えない傷を労わるように、私の背中をさすりつづける。私はふーっと疲れを吐き出すように息を吐いた。自分では平気なつもりでいたのに、全然ダメで笑っちゃう。




新はソファの上にそっと下ろしてくれた。




新のカーディガンをシーツがわりにして、ソファに寝転んでみる。



こんなことしたらカーディガンに変な皺がついてしまうと分かっていても、寝床のこだわりの強さは譲れない。新は咎めることなく、私の好きにさせてくれた。




新は私を可愛い飼い猫だと思っているから、こんなに甘やかしてくれる。でも、私は猫でもあるけど、人間でもある。いつかは働いて、お金を稼いで、自分を養わなければならない。



だから、このままじゃだめだ。だめなのに……今は、どうすればいいかわからない。

 



そんな事を悶々と考えながら瞼を下ろす。




――そして、次に瞼を持ち上げたときには、日がすっかり暮れてしまっていた。

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