第61話

文香は終始うつむいていたけれど、車に乗り込む動きを止めた彼女は、こちらを勢いよく振り返る。




 

「……私、週に1回新さんの家を訪ねていますが……3回に増やします!」





そんな捨て台詞を残し、ブーン!と白のミニバンが走り去った。




文香って……だいぶ面白い人かもしれない。





「彼女とは仲良くなれそう?」

 




至近距離でやさしい眼差しを向けられてしまい、私は咄嗟に目を逸らした。




あの女と私を引き合わせたのは新の仕業だったらしい。余計なことしやがって!と言ってやろうかと思ったけど。新の悲しむ表情が頭をよぎって、押し止まった。

 




「わかんない」


「まあ、会ったばかりだしね」


「……でも」


 



私が挑発しても、攻撃的な言葉を吐かなかった文香は、たぶん、悪い奴ではないと思う。


それを新に言ってやる義理はないけど……。私を妖怪呼ばわりしたんだし……。

 




「でも、何?」


 



新は先を促すように私の頬を指の背で撫でてくる。意味深に唇の端を持ち上げているので、私が言い淀んだことなんて全部お見通しなのかもしれない。

 



 

「〜〜なんでもない!」

 



 

ペシペシと尻尾で新の脚を叩いても、新は朗らかに笑うだけだった。

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