第59話

新が蔵に籠ると、私と文香の二人きりになる。これ以上一緒の空間は耐えられないので、寝室にこもってしまおうと思っていたのに。



突然手首を強く掴まれ、しっぽがタワシのようにボワッと膨らんだ。逃さないと言わんばかりのこの力強さ、はっきり言ってトラウマである。



……殺す、とか言い出さないよね?

 


 


「ところであなたは妖精ですか?それとも妖怪?」





真顔で目をランランと輝かせはじめた文香の、野次馬精神溢れる質問は、なんだか拍子抜けしてしまうものだった。



初めて猫の獣人と対峙したときの反応なんて、こんなものかもしれない。小さくため息をついてから、私はもう一度椅子に腰掛けた。



 


「……人間のつもりだけど」


「えっ、人間?それは、無理があると思うんですが……」





うわ〜めっちゃムカつくんですけど〜!



別に人間のつもりでいても良くない?私、人間社会しか知らないんだからね?



……と、心の中ではメンチ切ったけど、こちらには自分のことをあまり話すわけにはいかない事情がある。ふん、とそっぽを向くだけに留めておいた。



私が愛想の良い奴ではないことを理解したのか、文香の目つきが少しだけ鋭くなる。

 




「モネさんはここに住んでるんですか?」


「……そうだけど」


「新さんと二人で?」


「うん」


「どうして住むことになったんですか?」


「それは言えない」


「……二人はどういった関係なんですか?」


「言えない」

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