第56話

「新さん、いらっしゃいますか?」



 


新を呼ぶ可愛らしい女性の声に、私の三角耳がピン!と立ち上がった。




新の胸元を強く押し、廊下を走り抜けて、居間にあったソファの上に飛び乗った。背もたれの上から目だけを覗かせて、廊下の方を警戒しておく。




危なかった。また新の甘い毒にやられかけていた。全く、油断も隙もないな!


 


ふんふん鼻息荒くしながら警戒を続けている最中、三角耳がガサガサと草木をかき分けるような音を拾った。

 


なんとなく庭に視線を向けると、揺れていた尻尾がピタリと動きを止め、動揺で変な汗が止まらなくなる。




そこには、あんぐりと口を開けた着物姿の女の人が、震える手でこちらを指差していた。





「ね、ね、ねこ、ねねねこ人間……!?」




 

……私は、油断しすぎていることをもっと反省しようと思った。

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