第43話

「モネ。もう一度聞くけど、心当たりはないね?」




 

新に聞かれて、頭に浮かんだのは美人な姉の顔だった。

 



私は慌てて首を振る。

 


違う。あり得ない。そんなわけない。あの人は私を恨んでいるだろうけど、裏社会に通じているような人じゃないし、どちらかというとそういう社会を嫌悪するタイプだった。




いくら私のことが嫌いでも……姉は……違う。




私の様子は普通じゃなかった。きっと新もそれに気付いている。でも、私の頭をやさしく撫でるだけで何も聞かないでくれている。その気遣いに安堵し、少しだけ痛くも感じた。

 



 

「わけわかんねえ……どうしてカインドが日本にいるんだよ……」


「日本、とてもいいところだよ?」

 




項垂れる男に見当違いなことを言ってのける新は、その場にしゃがんで男と視線を合わせた。男は再びきょろきょろと忙しなく視線を泳がせる。新が怖いのか、その端正な顔立ちにドギマギしてるのか……あるいは両方かもしれない。

 



 

「次はある程度情報を集めてきてくれる?」


「……は!?次!?」


「うん。協力して欲しい」


「……い、嫌だと言ったら?」


「……」


「冗談だよ!冗談!精一杯頑張らせていただきます!」


「ありがとう。助かるよ」




 

新の無茶振りにも男は何度も頷いてみせた。笑顔は若干引き攣っていた気がするけど。



拘束を解かれた瞬間、男はそそくさと山の中に消えていく。その背中を見送ってから、新と二人で家の中へと戻る。

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