第26話
新は慣れた手つきで私をお姫様抱っこしてきた。慌てて首に手を回すと、新の薄い唇がわずかに弧を描く。
ガラス引き戸を開けると、長い廊下が左右に長く続いていた。木製の雨戸が閉まっていて今は見えないけど、雨戸の外は私が倒れていた庭があると記憶している。
廊下の先は真っ暗だ。古い日本家屋特有の冷ややかな空気も相まって、化けて出そうな雰囲気がぷんぷんする。
何かの拍子にナニが見えてしまったら嫌なので、私はぎゅっと目を瞑った。
新の逞しい首から振動が伝わってくる。
……これ、絶対笑ってんじゃん。
ムカつくから肩をゲシゲシと蹴っておいた。
脱衣所もだだっ広くて驚いてしまう。この家ってどれくらいの広さがあるんだろう。ちょっとだけ気になるけど、新に聞くのは負けた気がするから、私は一生この家の広さを知ることはないかもしれない。
「これをつければ大丈夫だよ」
私を小さな椅子に座らせた新が、透明なギプスのようなものを渡してきた。防水プロテクターといって、包帯を着用したままでもシャワーと入浴ができる便利アイテムらしい。
案の定、「着けるの手伝うね」とか言い出しやがったので、すかさずキッと睨みつけた。太ももを触るのも全然アウトだから。
新は困った顔をしているけどそこは譲れない。私が頑なにプロテクターを渡さないでいると、彼は何かあればすぐに自分を呼ぶようにと言い残し、脱衣所を去っていった。
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