第20話

 



18歳になるまで過ごした実家の庭の隅で、私は息を潜めていた。よく見ると自分の手足が異様に小さくて、お気に入りだった赤いワンピースを着ている。そこで、これは過去の記憶だと理解した。



今度は本物の夢を見ているみたいだ。



この日は確か、母が寝込んでいて、姉は学校からまだ帰ってなくて。

 


家から出るなと言われていたけど、私は外に出たかったから、言いつけを守らずに玄関で回覧板を受け取ったんだ。

 



 

『モネちゃん、あんなに大きくなってたのね』


『私は人間の姿だったことが一番驚いたわよ。生まれたときは、なんていうのかしら……得体の知れない毛むくじゃらの塊だったから』


『大変だったわよねえ。滝沢さん、我が子を見た瞬間気絶しちゃって』


『あんな化け物みたいなのがお腹から出てきたら、私だって気が狂うわよ』

 

 



垣根ごしに聞こえてくる、近所のおばさんたちの会話。その時の私は全てを理解できたわけではなかったけど、よく言われてないことはなんとなく感じ取っていた。化け物というのは、きっと私のことだ。



イライラする。私のこと何も知らないくせに。今すぐ飛び出してそう喚き散らしたかった。

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