第17話

「かわいいなあ」




 

私の箸がピタリと止まる。

 


うどんに夢中で気づかなかったけど、男は私の食べる姿をずっと眺めていたらしい。





「別に、かわいくなんか……」




 

顔を上げた先で、見つめられた。目を縁取る黒く長いまつ毛と、澄んだブルーの角膜がこわいくらいに綺麗で息を呑む。

 



 

「……ふふ」



 


見惚れて押し黙った私をしばらく観察したあと、男は三日月型に目を細めた。




 

「な、なに笑ってんの!?」


「いや、君があまりにもかわいくて。気を悪くしたのなら謝るよ」


 



紳士のお手本のような返しに、私はどう反撃すればいいのかわからない。

 


分かってたよ、分かってたけど。この人、タチの悪い方の人たらしだ。相手を懐柔するためには、自分がどんな言葉を口にし、どんな表情を浮かべるべきかを熟知している。


…まあ、この見た目でモテないなんて言われたら、私は彼を嘘つき呼ばわりするけど。

 



 

「そういえば名前も伝えてなかったな。俺はあらたって言います。好きなように呼んでね」




 

突然自己紹介を始めた男――新は、私との距離をグッと縮めてきた。

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