第16話

男が部屋を出て行くのを見届けてから、布団の上へと舞い戻る。足の痛みはだいぶマシになってるけど痛いのは痛いので、赤ちゃんのようにハイハイで移動する。



さっき素早く動けたのは、痛みより驚きが優っただけみたい。





男は10分もしないうちに戻ってきた。焦茶色のお盆の上に小さくて黒い土鍋がある。




 

「この土鍋のデザイン、良いでしょう?波佐見焼なんだ」

 




……土鍋のデザインとか言われても全然わからないので無視をする。



ただ、鰹出汁はとてもいい匂いだ。私の尻尾がうれしそうに、布団を押し退けてピーンと立っている。




 

「お腹空いてたんだね」


 



私の尻尾は雄弁すぎる。恥ずかしくてたまらなかったので、とりあえず睨んで誤魔化しておく。





男が設置したミニローテーブルの上には、ふわふわと湯気の立つ煮込みうどん。見ているだけで自然と生唾が込み上げてきた。

 



 

「はい、召し上がれ」




 

召し上がれなんて言われるから、私は食べてやるもんか、の気持ちになった。


……のは、一瞬だけ。




 

実際は空腹で死にそうだったので、私に食べないという選択肢はない。



れんげで恐る恐る出汁を掬って、匂いを嗅いでみる。パクッと口に含むと、やさしい味が口内に広がった。



それからは夢中でうどんを啜った。熱さもちょうどいいし、味も濃すぎない。ピンクと白の柔らかいかまぼこも、つるつるのわかめも、私の好きなやつだ。美味しい!

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