第3話

「誰?」





不気味なくらい綺麗な顔をしている。会ったことがあれば間違いなく覚えているはずなので、私はこの人を知らない。絶対知らない。


私の動揺に気付いていないのか、男は優雅に首を傾げていた。

 



 

「俺?ここの家主だよ」


「それは分かるけど……知り合いでもないのに、私、どうしてここに?」


「覚えてない?庭先で君が倒れてたんだよ」


 



男が指差した先には、朝日に照らされた広い庭があった。



あそこに?私が?……分からない。目覚めたばかりだからか、直近の記憶が思い出せなかった。




もっと近くで見たくて体を起こそうとしたけど、太ももがズキッと痛んでうめき声を上げてしまう。そこでようやく、右足が全体的に熱を帯びていることに気付いた。





「まだ寝てなさい」





男に促されて私は布団の上に逆戻り。彼は丁寧に掛け布団を整えたあと、私の足の怪我について教えてくれた。太ももがざっくりと切れているから、熱もそのせいだろうとのこと。


怪我を自覚すると、少しずつ記憶が蘇り始める。



そうだ、私は必死に逃げて、それで……私は……。



あと少しで思い出せそう、そんな時だった。男が布団を捲り、体を滑り込ませてきたのは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る