第4話:追跡者の影

翌朝、ゼクスとラクスは再び旅立つことを決め、村を出た。空は相変わらず澄み渡っており、海はきらめいていた。ゼクスは無表情で前を見つめていたが、昨晩のうたげの後、どこか彼の中に小さな変化があった。


ラクス「ねぇ、ゼクス。昨日、少しだけ笑いそうになってたでしょ?」


ゼクス「……いや。」


ラクスはクスクスと笑った。


ラクス「ほんの一瞬でも、あんたの顔が少しだけ柔らかくなったの、気づかなかったの?」


ゼクス「…気づかなかった。」


ラクス「まぁ、いいわ。あんたのペースで笑えばいいのよ。」


二人は冗談を交わしながら進んでいたが、次第に周囲の空気が変わり始めた。風が冷たくなり、森の中から妙な気配が漂ってくる。ゼクスは無言で剣のつかを握りしめた。


ラクス「感じるわね…何かが近づいてきてる。」


ゼクス「わかっている。」


突然、茂みの中から低い声が聞こえた。


謎の声「人間…貴様ら、ここまで来たか…」


二人は瞬時に構え、声の方向を注視した。すると、茂みから異様な姿をした人物が現れた。全身に大小無数の口を持ち、その体全体がざわつくように蠢いている。その姿は不気味であり、どこか恐怖を誘う。


ラクス「何なの、この化け物は…?」


男は静かに笑った。体中の口が同時に不気味な笑い声を発し、彼の存在感をさらに際立たせていた。


謎の人物「俺の名は"ガルガイダ"。ガイム様の右腕にして、アイスマン親衛隊の一人だ。お前たち、人間ごときがここまで辿り着くとはな…笑わせてくれる。」


ゼクスはガルガイダを見据えながら、剣を握りしめた。


ゼクス「ガイムの手下か。」


ガルガイダ「そうだ。そして、ガイム様の命を守るため、ここでお前たちの旅を終わらせる。」


ガルガイダが体中の口を大きく開け、何か不気味なエネルギーを発し始めた。黒い霧のようなものが彼の周りに広がり、辺りの気温が急速に下がっていく。


ラクス「ゼクス、これ…ただの霧じゃない。何か強い呪いのような力があるわ。」


ゼクス「わかっている。準備しろ。」


ガルガイダはゆっくりと手を振り上げ、笑いながら言った。


ガルガイダ「笑いの剣を持っているらしいな貴様。だが、その剣はまだ完全には目覚めていないだろ。笑えない者に、剣の力は引き出せないからな。ここでグチャグチャの肉塊にしてやる。」


ゼクスは静かにガルガイダを睨み、剣を構えた。


ゼクス「なら、試してみろ。」


ガルガイダの体中の口が一斉に開き、不気味なうねり声をあげながら、黒いエネルギーをゼクスたちに向けて放った。ゼクスはそれを剣で防ぎながら、ラクスに合図を送った。


ラクス「さあ、あんたの力、見せてちょうだい!」


ゼクスは剣を強く握りしめ、ガルガイダに向かって突進した。だが、ガルガイダは一瞬でその場から消え、別の場所に現れた。


ガルガイダ「お前たちには見えていないだろう。俺の速さ、そしてこの呪いの力は絶対だ。」


ゼクス「……。」


ガルガイダは再び攻撃を仕掛けてくる。ゼクスは剣を使い、その攻撃を防ぎながらも反撃を試みるが、ガルガイダの動きは速く、容易には捉えられなかった。


ラクス「ゼクス、私が囮になるから、あんたは隙を狙いなさい!」


ラクスはルーンアルバトロスを振りかざし、ガルガイダに向かって突進した。彼女の剣は感情の昂ぶりに反応し、輝きを増していた。だが、ガルガイダは冷静に彼女の動きを読み、笑いながら迎え撃った。


ガルガイダ「甘いな。そんな動きで俺に勝てると思っているのか?」


ガルガイダは軽く手を振るだけで、ラクスの剣を弾き飛ばし、彼女を地面に叩きつけた。そしてラクスを踏みつけた。ラクスは苦しそうに息を整えながら、ゼクスを見た。


ラクス「ゼクス…今よ!」


ゼクスはその瞬間を見逃さず、ガルガイダの背後に瞬時に移動し、全力で剣を振り下ろした。笑いの剣が一瞬輝き、ガルガイダの体を切り裂こうとするが――。


ガルガイダは不気味な笑みを浮かべ、体中の口でゼクスの剣を受け止めた。


ガルガイダ「この程度か…笑いの剣の力、こんなものではないだろう?笑わなければ、その剣はただの鉄くずだ!」


ゼクスは歯を食いしばり、力を込めて剣を押し込もうとしたが、ガルガイダの呪いの力に阻まれていた。


ガルガイダ「貴様が笑える頃には、この女の体はどうなっているだろうな!」


ゼクスは苦しそうに剣を握りしめながら、心の中で自問した。


ゼクス「俺は…笑えるのか?この状況で、何を笑えというんだ…」


ラクス「ゼクス! 立て直しなさい! この化け物、二人で力を合わせなきゃ倒せない!」


ラクスの声に呼応するように、ゼクスは体勢を整えた。そして再び、ガルガイダとの戦いが激化する。

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