第2話ラクスの秘密

ゼクスとラクスは、フジ老人に見送られ、村の外れに広がる道を歩いていた。空はみ渡り、風は心地よかったが、ゼクスは相変わらず無表情だった。ラクスは気にすることなく、軽い足取あしどりで進んでいた。


ラクス「ねぇ、ゼクス。あんたはどうして笑わないの?」


ゼクスは一瞬考えたが、すぐに答えた。


ゼクス「笑ったことがない。笑う理由が見つからないんだ。」


ラクスは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んだ。


ラクス「なるほどね。それじゃあ、笑いの剣は役に立たないわけね。」


ゼクス「今のところはな。」


ラクス「まぁ、それでも強いんでしょ? あんた、顔には出さないけど、腕は立ちそうだもん。」


ゼクスは何も言わず、ただ前を見て歩き続けた。ラクスの明るさに触れても、彼の感情は揺らがない。彼は自分がなぜ笑えないのか、それすらも理解できていなかった。


二人が歩く道中、突然、遠くから叫び声が聞こえてきた。ゼクスとラクスはその音に反応し、急いで駆けつけた。


村の中央広場に着くと、そこには何か巨大な影がうごめいていた。それは明らかに人間ではなく、鬼の手下の一体だった。全身を硬いうろこおおわれたその鬼は、周囲の村人たちを威圧いあつしていた。


鬼「人間ども! 鬼の王ガイム様に逆らう者は、こうなるのだ!」


鬼は鋭い爪を振り下ろそうとしていたが、その瞬間、ラクスが素早く剣を抜き、鬼の腕をはばんだ。


ラクス「気持ち悪いぶたね。」


鬼「お前、何者だ!」


ラクス「ただの冒険者よ。あんた不快ふかいだから消えなさい。」


ゼクスは一歩引いて様子をうかがっていた。ラクスの動きには鋭さがあり、鬼を翻弄ほんろうしていた。彼女の剣の名はルーンアルバトロス。

彼女の剣技は見事で、鬼は焦りの表情を見せ始めていた。


鬼「くっ、こんな人間に…!」


その瞬間、ラクスの剣が鬼の胸に深く突き刺さり、鬼は体内から爆発した。ルーンアルバトロスは使い手の感情がたかぶると威力を増すのだ。そして、鬼は絶命した。村人たちは歓声を上げ、ラクスを英雄のように讃えた。


ゼクス「…強いな。」


ラクス「ふふん、これぐらい朝飯前よ。あんたも手伝うかと思ったけど、私一人で十分だったみたいね。」


ゼクスは軽く肩をすくめたが、その表情に変化はなかった。ラクスはそんな彼を見て、少しだけ興味を持ったようだった。


村人たちが安堵あんどの表情を浮かべる中、ラクスとゼクスは村の宿に戻った。夕食を取りながら、二人はこれからの旅について話をした。


ラクス「ねぇ、ゼクス。あんた、鬼の王を倒すために旅してるんでしょ?」


ゼクス「ああ。」


ラクス「なんで?」


ゼクスは少しの間を置いて答えた。


ゼクス「ガイムに家族と村を滅ぼされた。だから、復讐する。」


ラクスはその言葉に真剣な顔をして聞いていたが、すぐに口元を引きめた。


ラクス「そっか。でもさ、あんたが笑わないのって、そのせいだけじゃないんじゃない?」


ゼクス「どういうことだ?」


ラクス「私の勘よ。まぁ、気にしないで。とにかく、ガイムを倒すには一筋縄ひとすじなわじゃいかないわ。鬼の手下だって、さっきのはただの雑魚だったけど、もっと強いやつがいるかもしれないし。」


ゼクス「分かっている。それでも行く。」


ラクスはゼクスをじっと見つめた後、少し微笑ほほんだ。


ラクス「面白いわね、あんた。口にソースついてるわよ。」


ゼクスは無表情のまま、ソースをぬぐった。すると


ラクス「フフフ(笑)あんた笑わないけど、笑わせる才能はあるみたいね。」


ゼクスはポカンとしていたが、心の奥で何かを感じていた。


翌朝、二人は再び旅を続けることにした。村を出たところで、ラクスが何かに気づいたように足を止めた。


ラクス「ゼクス、ちょっと待って。なにか感じる…」


ゼクスも辺りを見回す。確かに、ただならぬ気配が漂っていた。すると、茂みの中から現れたのは、再び鬼の手下だったが、今回は明らかに先ほどの鬼とは違い、力強さと凶暴さが感じられた。


鬼「お前たち、人間か? この先に進む者は誰であろうと命を捨てることになるぞ!」


ゼクスは無言で剣を抜き、鬼を見据えた。ラクスも剣を構え、ニヤリと笑った。


ラクス「いいじゃない、面白そう。ゼクス、今度はあんたの力見せてみななさいよ?」


ゼクス「ああ。」


そして、二人は新たな敵に向かって突進していった。戦いは始まったばかりだったが、その裏にはさらに大きな謎と強敵が待ち受けていた。 

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