第19話彼女の傘
海外に旅行に出かけた時に買ったらしい傘だが、花柄で南国を意識したような派手な傘で、正直、悪趣味だと思ったが、彼女はすごく気に入ったらしく、デートの時など、良く持って来ていた。そういう少し派手好きなところがあり、また独占欲が強い女で、やたらと、俺の携帯の着信履歴や携帯メールを見たがった。浮気を疑っているというより、自分の知らないところで勝手なことされるのが嫌という感じで、俺を束縛してきた。彼女の妹さんが俺の知人でもある彼氏について相談の電話をしてきたのを目ざとく見つけ、しつこく聞いてくるのにイラついて、大げんかになった。すると、彼女は妹さんをドロボウ猫と決めつけて、殺害しようとした。正当防衛だと思う。俺は妹さんを救うため、つい、はずみで彼女を殺してしまった。すると、妹さんは冷静に、姉が悪いといい、俺たちは、協力して、彼女の遺体を山の中に捨ててきた。
遺体が見つからなければ、殺人事件は成立しないし、警察も動かなかった。
彼女は行方不明扱いとなり、妹さんが、両親に警察に捜索願を出させて、それ以上の進展もなく、殺人と遺体遺棄の秘密を胸に隠したまま、梅雨が来た。すると、街で、彼女の持っていた傘と同じ柄の傘をよく見かけるようになった。最初は、ただの偶然かと思っていたが、妹さんから「傘が、姉の傘が来る」という携帯の留守電メッセージを聞いた直後、妹さんは道路に飛び出して車に轢かれ死んだ。目撃者の話によると、花柄の派手な傘を持った人物に道路に突き飛ばされたらしい。
俺も、相変わらず、派手な柄の傘を見かけた。念のため、彼女の実家のご両親に確認すると、その傘は、まだ彼女の家にあった。姉が行方不明となり、妹さんまで亡くなったご両親は、かなり憔悴しているようで、俺は、もしかして、息を吹き返して、彼女が地面から這い出てきて、俺たちへの復讐の機会をうかがっているのではと、思い、遺体を掘り返して、確認してみたり、傘を持つ女を異様に警戒したりしていた。そして、ついやってしまった、彼女の傘を恐れるあまり、似たような傘を持つ女性を殺してしまったのだ。当然、俺は殺人犯として捕まり、警察にすべてをぶちまけたが、俺が自供した場所に彼女の遺体はなくなっていて、俺は精神鑑定を受けることになった。普通の生活に戻れないのは確定だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます