第9話警告

「こんなことを言っても誰も信じないかも。警察にも通報しましたし、テレビ局にも直接出向きましたが受付で門前払いでしたから」

それは自室で録画したらしい短いメッセージ動画だった。後ろに彼女の部屋の家具が写っていて、一人暮らしの独身女性っぽい内装だった。

「でも、この動画を見た人は、少なくとも心の片隅には私が言ったことを覚えて欲しいと思います、せめて警告だけはさせて欲しい。彼らは身近な人たちと入れ替わるように侵略してきている。だから、誰も信じないで、彼らは普通の人間と変わらない。けど、両の目の動きが遅いの。物音がしても、ぱっと、そちらを見れない、時々、右と左の瞳が、別々の方向を見てる時があるの。慣れてくると、その表情が人間のそれとは部妙に違うのが分かってくるはず、だから、目の動きに注意してみて、おかしいって何となく分かるはずだから」

「おい、こんな夜遅くまでネットか?」

パジャマ姿の夫が怪訝そうに声をかけて来たので、妻である私は苦笑した。

「ごめんなさい。もう寝るわ」

目の動きぐらいなんだというのだ。これまで、何度か浮気してきた夫より、今の夫の方が、私に優しく、夫婦仲は良くなっていた。

だから、その動画のサイトを、そのまま閉じて、私はパソコンの電源を落とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る