第89話

“崇音も花房さんも似た者同士だね”


仲宗根くんに言われた言葉を思い出す。


今の私が臆病なんだとしたら芹沢くんも同じってこと?


それならお互いに何も踏み込まずに終わってしまう。


そんなのは嫌だ。




「芹沢くん」


「何」


「さっきの子と何があったのか聞いてもいい?」




これで断られたらそれでいい。


もうこのことについては触れないようにすればいいから。


芹沢くんの気持ちをひとつでも取り溢したくなくてじっと正面から見据えた。


呆気に取られたような表情をして、私を見つめ返してくる。


長い沈黙が続く。



じんわりと背中が熱くなり、首筋に汗が伝う。




「───あいつ、宮坂は中学の時クラスメイトからいじめを受けてたんだよ」




ゆっくりと開いた唇。


昔の記憶をなぞりながら、懐かしみながら告げられた。




「出会った時にはすでにいじめは始まってた。クラスが離れてたし、あいつがいじめられてることなんて俺は全然知らなかった」




どこか悔しさを滲ませるような、自分を責めるような微笑みを浮かべる。

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