第87話

残された芹沢くんがどんな表情をしているのかはわからなかった。ただ、謝る側も謝られた側も苦しいことだけは私にもわかった。




「お待たせしました。バニラ&ストロベリーのジェラートとオレンジジュースになります」


「ありがとう、ございます」


「ごゆっくりどうぞ」




スプーンですくって口の中に入れたジェラートはゆっくりと溶けていく。


甘ったるいバニラの味がいなくなると、舌に残るのは甘酸っぱいストロベリーの味。



芹沢くんにとってその子との思い出は時間が経てば溶けて無くなっていくんだろうか。


それとも残り続けるんだろうか。



美味しいはずのジェラートも楽しむ余裕もなく、食べ切ってしまう。


私がジュースを飲み切った時には芹沢くんの姿はなくて帰ってしまったらしい。


そのテーブルにはほとんど手のつけられていないグラスと、空になったグラスが残っていた。




「ありがとうございましたー」




明るい店員の声に見送られ、外に出る。



するとお店を出たすぐそこのガードレールに持たれ掛かっている芹沢くんがそこにいて。


私に気がつくと、ゆっくりと近づいて来た。

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