第74話

やっぱり話しかけるのはまた今度にしよう。


うん、その方が良い。


抜き足差し足忍び足で、そっとその場から離れようとした。




「おい、そこにいるのわかってるからな」




ぎくっとその声に背筋が伸び、恐る恐る振り返る。


するとそこには芹沢くんが立っていてヘラヘラと笑って見せた私に目を細めた。




「何、盗み聞きしてるんだよ、バカ」


「バ、バカ!?そ、それに、盗み聞きしたというか、たまたまそこに居合わせちゃったの!」


「へぇ」




出来れば機嫌がいい時に会いたかったんです、私は。


心の中でシクシクと泣いていると、




「いつもと違うな、髪型」


「えっ!気づいてくれた!?」


「いつも長い髪だからわかる」


「羊ヘアーって言うんだって!可愛い?」




両手で団子を持って笑えば、なぜか固まる芹沢くん。


自分から可愛いなんて聞いちゃうのは良くなかったかな?

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