第54話

「階段から落ちてきたと思ったら次は雨に打たれるのかよ」


「ご、ごめん」




辿り着いたバス停所には屋根があって、そこのベンチに腰掛ける。すると傘を畳んだ芹沢くんはバッグを開けて何かを取り出した。


ポタポタと髪先から落ちる水滴。


ぶるりと震えた体。


それと同時にふわりと何かが頭に被せられた。




「?」


「これ、貸すから拭いとけ」




柔軟剤の甘い香りがして見上げると、白のタオルが頭の上に乗っていた。




「や、大丈夫!すぐ乾くから!」


「震えてんのに?それにこのタオルまだ使ってないから綺麗だって」




なんだ、この優男は。


パチパチと瞬くと「風邪ひかないようにささっと拭け」と目で促される。



ここは芹沢くんの優しさを素直に受け取るべきなのかもしれない。


人のタオルを使うことに躊躇いつつも、濡れた髪や顔を拭く。よく見ると、そのタオルにはピンク色の刺繍でSerisawaと書かれていて、文字の横には小さなクマのワッペンが付いていた。

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