第53話

まさかこの察しが良さそうな顔で、鈍感なの?


ふざけていない目の前の綺麗な顔に目が点になる。


本気まじで言ってる?


普通に落ち込みそう。




「と、とにかく、覚悟しててよね!」


「はいはい」




さっきよりも私の言葉を軽く受け流し、長い足で引き返して来る。




「びしょ濡れじゃん」


「…あっ、忘れてた」




傘を傾けられたことで自分が雨に打たれていたことを思い出す。


ずっしりと重くなった制服。


水色のシャツは水分を含んで濃い水色へと変化している。


おでこに張り付いた前髪を片手で除けると、なぜか顔を横向けて傘を突き出す芹沢くんがそこにいた。


その耳はほんのりと赤く染まっている。




「え、ちょ、それだと芹沢くんが濡れるんじゃ、」


「………透けてる」


「何がって、きゃあっ!?」




どうしたんだろう、と考えながら自分を見下ろせばすぐそこに正解が転がっていた。



下に着ていた黒のキャミソールがシャツの上からはっきりとわかるくらいになっていた。幸い、下着は透けていなくてホッとする。


両手でバッテンをつくるようにして透けた部分を隠した。

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