第49話

立ち止まって歩き出そうとはしない。


もしかして私を自分の傘に入れようとしてくれてる?


いやまさかね。


自惚れるな私。




「ないんだろ、傘」




さっき言ったこと覚えてくれてたんだ。


それはきっと芹沢くんなりの言葉なんだろう。


そんな風に声をかけられたら私じゃなくてもきゅんとする。




「……えっと、バス停すぐそこだから」


「すぐそこって3分は歩くだろ」




あぁ、私のバカ!


せっかく相合傘のお誘い(違う)を受けたっていうのに何を言ってるの!


なぜか上手く誘いに乗る言葉が出てこない。




「濡れるから早く入ったら」




素っ気ない声のトーンとは反対に私の方へと傾けられる傘。


降り頻る雨が傘に当たって音を鳴らす。


その音が急かすようにリズムを刻む。




「お、お邪魔します」




少しだけ傘に入れてもらうとお互い何も言わずに歩き出す。

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