第28話

あっさりと2人きりになり、変に緊張して黙り込んでしまう。


話しかける前までは会ったらこんなこと聞きたいとかいっぱい考えてたのにいざ目の前にすると頭が真っ白になる。




芹沢せりさわ 崇音たかね




穏やかに告げられた名前にバッと顔を上げると、「直接聞きたかったんだろ?」と瞳が悪戯に笑う。


その表情はずるい。




「私の名前は、」


「ふ、さっき聞いたって。花房だろ」


「う、うん!」




ぜひ華子と呼んでください。


ひっそりと心の中でそんな願いごとを言ってみる。




「花房はどっか行く途中だった?」


「自販機に行こうと思ってて」


「なら、行き先は一緒か」




手に持っている財布を見せると芹沢くんは歩き出す。


耳朶に付いているピアスが歩くたびに揺れる。


手足が同時に前に出そうになるのを気をつけながら少し早歩きしながら隣に並ぶ。


まだ全然話せてないのに2人きりの時間が終わっちゃう。

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