第16話

「っ!?」




ただ踏み出した先に地面はなく、自分がいた場所が階段であることをすっかり忘れてしまっていた。



ぐらりと前に傾いた体。


重力に抗うこともできずに私は階段から落ちた。




次に襲いかかってくるはずの痛みにぎゅっと目を瞑る。


何かが地面と激しくぶつかる音と、そして段ボールが擦れた音。


なぜか、来るはずの痛みが一向に来ない。




「…う」




恐る恐るそっと目を開けば、案の定床に散らばったファイルがあった。


重い段ボールを持っていた手は誰かのシャツを掴んでいて、ぼんやりとした意識が徐々に鮮明になっていく。




「っ、えっ!?」


「……気づくのおそ」




そして、私はすっぽりとその人の腕の中に収まっていた。


階段から落ちた衝撃は全部吸収してくれたらしく、綺麗な顔が痛みに歪んでいる。




「ご、ごめんなさいっ!!私、ほんとに、ごめんなさい!!」




まさか自分じゃなくて他人に怪我させるなんて、最低だ。


あたふたと後退ればその人は僅かに目を細めた。

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