第3話 機械を超えたい

「機械仕掛けの神、という意味でしたっけ。私がしたいのは、そんなマシンの真似事じゃないんですよ」


 この発言をした瞬間、冷や汗を感じた。


「いや、それはMAKI選手の常人には到底真似できない、機械にも匹敵する超人的な正確さを表した言葉で……」


 でも、反省はしていない。心から出た言葉なんだから。気にせずに、私は次の言葉を発する。


「――音楽ゲームって、機械が最強じゃないですか」


 そう。正しく、リズムよくボタンを押す。これだけのゲームなんだから、正確に時を刻み、精密な作業ができるマシンがあれば、このゲームで満点を取ることなどたやすい。

 実際、機械によるプレイは『オートプレイ』などと呼ばれ、トッププレイヤーたちも参考にしているくらいだ。

 音楽ゲームにおいて、機械に敵う相手など存在しない。これはこの界隈の常識であり、摂理でもある。


「そうですね……」

「でも、本当にそれでいいんですか? わざわざ機械と肩を並べるために上達するんですか? 機械を超えたくはないんですか!?」

「でも、機械に音ゲーをやらせたら常に満点ですよ。MAKI選手がどれだけ食らいついたとしても、満点同士の引き分けにしかなりません!」


 インタビュアーもあたふたしちゃっている。正直悪いとは思っているが、私の心には逆らえまい。


「そうなんです。これが私のジレンマ、最近こう思うようになりました。なので私はさらに上達し、いつの日か機械をも超越することを目指します」


 私の中に残る一パーセントの善意を振り絞り、きれいに話をまとめ上げる。


「そ、そういうことですね! 皆様、MAKI選手のさらなる上達にご期待ください!」



 ようやく舞台裏に戻ってくることができた。


「MAKI、お疲れ!」


 そこで待っていたのは先ほどの対戦相手でもある、私の良きライバルのSKYさん。


「決勝戦、SNSで話題になってるぞ。トレンド一位だ」

「そうなんですか?」

「なんでも最難関曲の『Growing』を一発でAPAll Perfectしたことが話題になっているな」

「私からしたら、そのくらいどうってこと……」


 こんな言葉も、他の人に言ったら皮肉になってしまう。だがSKYさんの前でなら心置きなく言える、信頼しあっている仲間なのだ。


「だろうな、MAKIは上手いもんなぁ」


 SKYさんも私ほどではないにしろ、十分すぎるトップランカーなんですけどね。というか世間曰く、私が強すぎるらしいです。


「ありがとうございます。ところでなんですけど、音ゲーで機械に勝つ方法ってあると思いますか?」


 ふと思い、先ほどのインタビューのことを思い返す。


「うーん……機械は確実に満点を取る存在だからなぁ、MAKIでも良くて引き分けどまりなんだよなぁ……」


 SKYさんも結局は似たような反応だ。


「そうだ。今の機械じゃ対応できないくらい素早い曲を作って、それに挑むってのはどうだ?」

「当然そんな曲、人間の手にも負えないけど……」

「MAKIの実力がなせる業ってことだな」


 お、おぉ……


「SKYさん、最高です!」


 私は瞳を輝かせながら、SKYさんの手を握っていた。


「何をする気かわからないけど、俺はMAKIを応援する。到底手の届かない、一人のプレイヤーとしてな」


 最高のアイデアです!

 この大会が終わったら、早速トッププレイヤーのコネを使って開発者に直談判しに行きましょうかね。

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