【あの場所に残る者たちの記録】
かつて、人間が暮らしていたという住宅街。
窓に顔を突っ込み、動くことのないワシ型兵器。
その下には……3人の人影が、集まっていた。
「……それで、あの人型AI、キャンティは完全に機能を停止したんだな?」
その下で、軍服を身に纏った人影が女性の声を出してたずねる。
「ああ、一時的な拠点として使っていたらしいシェルターで“人間教の娘”のボディが発見された」
それに対して男性の声が答え、軍服の人影と握手をして接触通信を行う。男性の声を出した人影はフードをかぶっており、その姿はよくわからない。その背中には、逆さ張り付けにされた人の絵が書かれていた。
「……それで、電子頭脳は?」
「なかった。おまえが例の庭で見つけた破片が、やはり人間教の娘の電子頭脳……つまり、使い物にならなくなったわけだ」
フードの人影はため息の音を再生し、軍服の人影は横を向いて睨んだ。
「やめてよお……そんな顔して……ボク、なにか悪いことした?」
その先には、塀の上に腰掛ける羽の生えた手乗りサイズの人影がすすり泣く。
「……兵器を操るという貴様のその能力、キャンティの頭部を破壊することなく機能停止させることができたのでは?」
「そんなこと言ったって、ボクは兵器を操れないよう。あくまでも兵器たちがどこに向かうかを指定できるだけなんだからさぁ。それにあのデカイヤツ……バッグって言ったっけ? アイツがいろいろ見て廻るせいでなかなか家から出られなかったんだよう」
羽の生えた人影の弁明は泣き声の電子音声を流す。
「つまり発見されることを恐れてキャンティを追跡できず、過去のAIの修理を許してしまった……ということだな」
「まあそこまでで許してやれ」
鋭い視線を送る軍服の人影を、フードの人影が制した。
「まあいいだろう。貴様の能力がどんなものかを見られただけでも収穫だ。だが――」
バサリ、と軍服の上に羽織るマントを靡かせ、軍服の人影は歩き出す。
「キャンティが再起動させたあの人型AI……彼女の捕獲は“我が国の同胞たち”が行う。それは邪魔をするな」
「ああ、元からおまえに託すつもりだった。あの人間教の娘が何をしようとしているのかを知るためにも、彼女は捕獲せねばなるまい」
その軍服の人影の背中を追いかけるように、フードの人影も歩き出す。その肩に羽の生えた人影が座り、ツンツンとつつく。
「ねえ、面白いことするって言うから君たちについてきたんだけど……なんでそんなことしているの?」
無垢な子供のようにたずねる羽の人影に対して、フードの人影は金属の唇を動かした。
「俺たちの望みは、“人間教の崩壊”。下等種族である人間の痕跡を消し去ることこそが、人間からの自由を求めている」
「……あはは! いいね! 悲しみと楽しさ以外の感情がいっぱい見られそう!」
羽の人影は、先ほどまで泣いていたのが嘘のように、晴れ晴れとした笑顔を見せた。
そんなふたりの上空を、影が通り過ぎる。
上を見上げれば、蛇のように唸りながら空を通過する東洋の龍の飛行機。
その龍型の兵器を見て、羽の生えた人影は親しそうに手を振った。
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