第4話 満月の下に咲く花
アタシとキャンティは、共に住宅街へと向かうために準備を始める。
「そっちの準備は大丈夫?」
「ああ……なんとなくなんだけど、剣での戦い方もわかってるぜ」
腰にショートソードを装着し、キャンティに見せてみる。
キャンティはアタシを修理をした時に、戦闘プログラムというものを導入していたらしい。
この戦闘プログラムは自身に危機が迫った時などに無意識的に起動するみたいで、さっきシェルター内でネズミ型兵器と戦った時にも攻撃を凌いで一体破壊することができた。それだけでなく、こういった武器を使った戦い方も理解していたんだ。
「うーん……それにしても、戦闘プログラムを使ったのは初めてよね? 本来は数回ほど敵との戦闘経験を積ませないと咄嗟に回避するなんて出来ないはずだけど……」
「そうか? あ、もしかして……アタシ才能あったり??」
思わず照れながらそう呟いてみても、キャンティは「まあいっか」と先にシェルターの扉を開けた。
人間が絡まないとあんま興味ないのね……
シェルターの外に出ると、風に吹かれる木の音が聞こえてきた。
このシェルターは街外れの山奥に存在する。目の前に広がるのはヒビが目立つ駐車場……そして、街へと続くアスファルトの道だ。
「そういえば、もう開いてみた? 冒険機アプリ」
アスファルトを歩いていると、懐中電灯を持って先頭を歩いていたキャンティが振り向く。
「冒険機……アプリ??」
「戦闘プログラムと一緒に、キミを修理した時と一緒に入れておいたの。さっき送った私のデータも、そこから見れるよ」
人間が使っていたPCやスマホでいう“アプリ”を、アタシたちAIは
アタシは立ち止まって、アプリの検索に集中する。
……あった、これか?
・冒険機アプリを起動する。
【https://kakuyomu.jp/shared_drafts/FxbvA89uX4UzlYNkH8bDpkUcOZvkdJa4】
……どうやらこのアプリは、出会った人のプロフィールを自動で記入して閲覧するものらしい。
特に、“パーティ”として登録したAIは一定距離にいる間なら、ダメージを受けた情報を共有できる。つまり、“仲間の危機にいち早く察知できる”……みたいだ。
他には場所の名前を登録するメニューやメモ機能もあった。他にもいろいろあるみたいだけど……今はわからないものばかりだ。
「……それにしても、冒険機ってなんだよ?」
さっきから気になっていたことについてたずねてみると、キャンティが立ち止まり待ってましたと言わんばかりの笑顔で振り返る。
「この世界には“冒険機”っていう役割を持ったAIが街の外に関わる依頼を請け負うの。兵器退治や人間様の生活が窺える遺品の捜索、あとは戦闘力のないAIの護衛など請け負っている……このアプリはそんな彼ら冒険機たちの仕事を円滑にするためのものね」
冒険機……冒険機……冒険……機……?
ふと電子頭脳に浮かんだのは、マスターが持っていたファンタジー世界を舞台にする小説やゲームに出てくる……
「あ! “冒険者”みたいなもんか!? 冒険者みたいなことをする機械だから、冒険機!!」
「そう! 人間様の書物に書かれていた冒険者よ! なんでも、“チュウセイ”と呼ばれる時代で、実際に“モンスター”って呼ばれる怪物と戦っていたらしいわ! モンスターが存在した証拠がないから作り話という意見もあるけど、私は実在した出来事だって信じてるの!」
……あー、残念だけど
でも本人は真剣に信じているみたいだから、がっかりさせないために黙っておくことにした。
「でも、これって冒険機っていう役割を持ったAI用だろ? どうしてアタシなんかに?」
「ふふっ。やっぱり安全な博物館で50年前の歴史を伝えるために展示品として過ごす方がよかった?」
「!!? やだよ!! 物みてぇじゃねえか!!」
物のように扱われるのが嫌で全力否定したら、キャンティのヤツ大声で笑いやがった!
笑いごとじゃねえ! アタシは人間になるってマスターと約束してるんだ!!
「あははは!! だったらちゃんと、みんなのために役に立ってもらわないとね。冒険機は命がけだけど、必要としているAIは大勢いるからやり甲斐あるよ」
必要としているAIは大勢いる……か。
つまり人助けってことだよな。人助けしたら、マスター喜んでくれるかな……
「といっても、すぐに決めなくても大丈夫。キミに送ったアプリは必要最低限のものだけだから、まずはそれに慣れていってね」
冒険機になる覚悟ができたら、活動に必要なデータ渡してあげるから! とキャンティはウインクした。
「キミが冒険機になってくれたら……“あの子”に聞かせるお話が増えるからね。あの子のために、キミを見つけられてホントよかった」
「……?」
あの子……?
アタシのマスターのことじゃねえよな……キャンティの知り合い?
「ほら、早く行きましょ。キミのマスターを探しに行くんでしょ?」
「あ、ちょっと置いてくなよ!」
先を急ぐキャンティに、アタシは考察を切り上げて追いかけた。
しばらく歩いていると、ようやくアタシがマスターと暮らしていた住宅街へとたどり着いた。
「……! 隠れて」
キャンティの指示に従って、アタシは側の車の影に隠れる。
暗闇でよく見えないけど……さっき一瞬だけ、この車の向こう側にさっきのネズミ型兵器の群れが見えた気がする……
「? キャンティ、なにか聞こえないか?」
「あ、たしかになにか聞こえてくる……」
その音は、アタシたちのいる自動車よりも奥から聞こえてくる。
誰かの足音、合間に挟まれる何かが砕ける音、電子音の悲鳴……
やがてそれらの音は近づき、奥から光が現れた……!
「! “バッグ”!」
ボリュームを抑えた声でキャンティが呟く。
奥にある光はネックライト。それを首に装着したシルエットは、3mはあるだろう大柄な鎧だった。周辺に群がるネズミ型兵器に対して、棒状の武器で振り回している。
「もしかして、アイツが例の護衛?」
「ええ、ネズミ型兵器に囲まれてなかなか帰ってこなかったのね……ユア、いける?」
キャンティの言葉に対して、アタシはうなずく。
「ああ、助太刀しようぜ!」
アタシは剣を引き抜き、自動車の前から躍り出る……!
「ッ! 待った!! 後ろッッ!」
突然叫んだキャンティに、アタシは反射的に振り返る――ッ!
空を飛ぶなにかがこちらに向かって、落ちてくるッッ!!
「――ゎあああッ!!?」
反射的にその場でかがんだアタシの上を通過していったのは……巨大な鳥の影。
見上げた瞬間、50年前のあの日の光景が再生される。
あの日マスターを連れ去った、ワシ型兵器。
今見ても、実際のオオワシなんかより十倍ほど……飛行機並の大きさを持つその兵器は、再び空へと戻っていった。
「おい! そこのキミ達!!」
奥から聞こえた声に、アタシたちは我に返る。
「早くこっちに! 狙ってる!!」
周辺のネズミ型兵器の残骸の上に立つ人型AI……バッグの言う通り、空で羽ばたくワシ型兵器がこちらを見ている。
「行きましょう!!」
「ッ!」
アタシはキャンティと共に、バッグの元へ走り出す!
「掴まれ!!」
バッグが後ろの塀を乗り越え、その頂上から大きな手を差し出す。
その手を掴むと、バッグはアタシを引き上げて塀の先へと投げてくれた。着地した先にあるのは民家の庭のようだ。
「結局あなたに助けられるなんてね!」「!? 来てたの!?」
後ろではキャンティとバッグの声が聞こえてくる。きっとキャンティの方から来るとは思ってなかったんだろうな……
「ッ!」
後ろを振り向いたアタシは、思わず声を上げた。
「キャンティッ!! バッグッ!!」
「!!」「!!」
上空から、ワシ型兵器がバッグに向かって落ちてきていた!!
「バッグ!!」「えッ!!?」
その瞬間、アタシの隣に落ちてきたのは……キャンティではなく、バッグだった。
まるで、押し出されたように……庇うように突き落とされたように……バッグは背中から落ちた。
そして、ワシ型の兵器は再び空へと昇る。
その足の爪で掴んだ、キャンティとともに。
「や……やだ……!」
空を見上げると、顔面を掴まれたキャンティが、逃れようと足をじたばたと動かしていた……
「壊れたくない! 壊れたくないッ! もっと人間様のことを知りたいッ! 人間様のようにッ! 受け継いでッッ! 生きた――」
ワシ型兵器の爪が、力強く握る。
一瞬の電流が見えた瞬間、キャンティの胴体が落ちてくる。
ガシャン、と庭に叩きつけられた衝撃で手足が切り離された。
その周辺に、頭部の姿はない。
……パラパラと、かつて頭部だった部品が落ちてくる。
電子頭脳のチップ、眼球形カメラ、フレームのかけら……と。
「いいいいいいイイイイイイノノノノノNONONOOOOOooooooooooo――」
満月の下、
首の断面から零れ落ちた
飛び散る火花は……燭台についた炎のように輝いていた。
次の更新予定
2024年12月2日 15:07 毎日 15:07
冒険機YOUR~人類滅亡後の世界でも、アンドロイドガールは人間らしく生きたい~ オロボ46 @orobo46
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