第3話 人間のいない世界
「せっかくだから、落ちついた場所に向かいながら話しましょうか」
アタシたちは、シェルター内の食堂に向かいながら話す。
その道中で、アタシを助けてくれた人型AIのキャンティが今の状況について教えてくれた。
「まずキミが機能停止してた時間帯だけど……ざっくり50年かな」
「50年ッ!?」
それじゃあアタシが機能停止してから再起動まで、50年経ってたことかよ!?
……実感がなかなか湧かない。そんな長い時間、アタシは動かないただのマネキンになっていたなんて……
「それじゃあ、50年の間でどうやって人間は……」
「戦争よ。人間様が作ったAI兵器が、お互いの国の人間様を殺し尽くしたの」
放たれたAI兵器たちは人類がどんな場所にいようとも温度と息づかいに反応するセンサーで感知、殺戮を行った。
その瞬間が、アタシが機能停止する前に見たあの光景だったんだ。
「最後に残ったのは、AI兵器たち。そして、息をしないことから感知されなかった、疑似人格を持ったAIたちだった……」
テーブルの上に置かれた懐中電灯が照らす食堂の中、キャンティは何かを摘まみながら笑い出した。
「まあ、息での感知はしてこないだけで、今でも私たちを見つけたら襲いかかってくるけどね。ふふっ」
いや、ふふっじゃないんだけど……
周りの人骨を気にする様子のないその姿は、なんだか映画を見ながらほおばるポップコーン感覚だ。
「今、私たちAIは団結して街を作り、そこで子孫となるAIを作って、街の外から物資を回収して……そうやって、
「……」
じゃあ、このキャンティも人間が絶滅した後に創られたのか……
本人は明るく振る舞ってるみたいだけど、アタシたちAIは人間のために創られるはずなのに人間のいない世界で稼働しつづけてきたなんて……
「今、私のことかわいそうって思った?」
「えっ」
アタシの表情を読み取られて、キャンティはカラカラと笑った。
「もちろん悲しいことだっていっぱいあるよ。大切な
……なんだか、マスターのお母さんを思い出す。
お母さんと顔や性格とか全然違うけど……それに近い物を、感じていた。
そんなアタシの様子を見てまた笑っていたキャンティだったけど、ふと摘まんでいたものを口に入れながら眉をひそめた。
「……それにしても、人間様ってこんな濃いもの食べてたのね。さすがにこの量食べてたら味覚センサーが狂いそう」
……ん?
「キャンティ、ちょっとかせ!」
「え、ちょ、あ」
アタシは包み紙を開こうとした“それ”をキャンティから取り上げた。
……やっぱり。これ
このままAIが食べても害はないけど、せっかくだったら美味しく食べたいよな……
「なあ、水道やガスって今でも通っているか? なかったらお湯が作れるものがあれば……」
「えっと、携帯用電気ケトルならあるけど……」
キャンティがシェルター内で拾った電気ケトルを使って、アタシは飲料水からお湯を作り、それをコップの中に入ったキューブに注ぎ、フォークでかき混ぜる……
「よし、これで完成だな!」
匂い香る味噌汁の入ったコップを、キャンティの前に差し出す。
キャンティは
「!! お、おいしい……!! これが人間様が飲んでいたって言われてる……味噌汁……!!」
「な! 本物とはちょっと違うけどうまいだろ! 人間はどうしても調理の時間がない時にこれを飲んでたんだ……おっと!?」
突然、キャンティが立ち上がってアタシの手を握ってきた。
「ありがとう……キミがいなかったら、人間様のようにこの味噌汁を飲めなかったわ……!!」
キャンティの目には、ノイズが走っている。人間が涙を流すように、AIは感情が高ぶると
「そ……そこまで……よろこぶ??」
「もちろんよ!! かつての人間様と同じ動作をすること……これ以上の喜びはないわ!!」
胸元のペンダントを掲げて、天に捧げる……え、神様に感謝捧げるほど??
「人間様は、“神”という存在を崇めていた……神によって人間……そして世界は作られたと信じていたの。それと同じように、私たちAIを作った人間様は称えられるべきなのよ」
そういえばさっきからキャンティって、人間のことを人間“様”って呼んでいるけど……もしかして。
「つまり、あんたたちにとって人間は神様と同じってことか?」
「ええ! だから私はキミを再起動させた。人間様に仕えていたキミからいろんな話を聞きたくて、修理して再起動したの!」
……人間に仕えていた。
その言葉を聞いた瞬間、アタシの電子頭脳がマスターの顔を再生した。
「私の住む拠点まで運んでいたら大変だから、ここで再起動させたけどね……って、どうしたの?」
「……」
ふと気がつくと、アタシは椅子から立ち上がっていた。
「……マスターを、探しに行かねえと」
キャンティは当然、話を聞いてたかと言いたげな目でアタシを見てくる。
わかってるよ……人間が絶滅したらしいことは。
「アタシだって、なんとなく飲み込めてきたよ……でも、あの時マスターは鳥形の兵器に連れ去られたんだ。もしかしたら、どこか別の場所に連れられて、唯一生き残っているかもしれねえ……この
アタシの電子頭脳は人間たちが絶滅したって受け入れているのに、マスターが死んだことは疑似人格が否定している。
自分の目で確かめないと、納得なんてできない。
「……」
「ごめん、キャンティ……また会ったら、人間のこと話してやるからよ」
動作音を響かせてフリーズしているキャンティに別れを告げて、アタシは食堂の出口に向かった……
「……ッッッあはははは!! ちょっとストップ! ストップ! ストップ!!」
「!?」
と思ったら、急に笑い始めた!?
さっきから泣いたり笑ったり……なんだこの
「やっぱり人間様に仕えてたAIって面白いね! 私たちこの時代生まれのAIと比べものにならないほど……人間らしい」
キャンティは笑いをこらえつつ席を立って、アタシの前で手を差し伸べた。
「実は私の護衛を頼んでいたAIが、キミを見つけたあの民家に残ってるの。でも全然帰ってこないから今から様子を見にいくつもりだった……キミもあそこにいくつもりなら、私もついて行かせてよ」
ほら、手を握って。そう言われるがままにキャンティと握手する……
!!
瞬間、掌の接触通信によって、アタシの電子頭脳にデータが送られた……?
「聞いたことあるでしょ? “パーティ”……人間様の書いた書籍に出てくる、行動を共にする仲間……これで私たちは、“パーティ”よ」
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