7. 靴
僕が心底うんざりしたのは、靴の事件でした。
その朝はすっかり寝過ごしてしまい、顔を洗って歯を磨いて服を着替えると、寝ぐせも直さず朝飯も食べず、荷物を担いで鍵をつかんで玄関に急ぎました。
お気に入りの黒い革靴に右足を突っ込んだ瞬間、思わず足を振って靴を振り飛ばしました。靴に突っ込んだ右の足裏に生暖かい感触が伝わったのです。心臓がばくばく音を立てています。玄関マットの上にちん、とそろえられている左靴にそっと手を突っ込んでみました。ほんのりと、というよりはもう少し暖かく、いかにも今脱いだばかりのようにじっとり湿っています。高熱の病人の腹を不用意に触ってしまった衝撃と不快さが靴の中に潜んでいました。
ぞっとして、その日は靴棚から青いスニーカーを取り出し、履いていきました。その革靴ですか? たぶん、捨てたような気がします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます