6. 灰色のカーテン
その部屋には入居した時から灰色の厚手のカーテンがかかっていました。見た目も悪くないし、きちんと朝日を遮光できるし、このままでいいやと使い続けてもう三年目です。幾度か洗濯したけれど、みっちり密度の高い生地はちっともへたる様子はなく、冬場の保温能力も申し分ありませんでした。でも、夏場はちょっと重苦しく見えました。
大学から大通りを歩いて一時間ほど北上し、西に少し入り込んだところに僕の住むマンションはありました。西に伸びる小道に沿って飲食店が一軒と低層住宅が二軒並び、空き地を挟んで四軒目がマンションです。高い建物がないので、大通りからもうその白い外壁が視界に入り、僕の部屋の窓が見えます。
日曜日の午後、近所のスーパーに買い物に出かけ、マンションへの小道まで戻ってきた僕はあれっと思いました。僕の部屋のカーテンが半分開いて、窓の奥が通りから黒々と見えています。カーテン、閉め忘れたっけ? 記憶を探りますがはっきり思い出せず、気をつけようと意識しました。そのとき、カーテンの端がひらりと揺れたように見えましたが、気のせいだったかもしれません。
翌日は朝出かけるときに意識的にカーテンをぴったりと閉めました。でも、夜に帰ってくると、カーテンは半分開いていました。
少し、嫌な気持ちになりました。テレビの音量を変えられたり、玄関扉のハンドルがきゅいと押し下げられるのはまだ許せます。でも、プライベートな空間をさらされるのは我慢なりません。僕の部屋は四階だから、路上から部屋の中が丸見えとはいきませんが、それでももやもやしたものが残りました。僕の苛立ちが伝わったのか、それ以降、しばらくカーテンが開くことはありませんでした。
ひと月ほどたった日曜日、近所のパン屋に買い物に出かけ、大通りから西に折れると、僕の部屋のカーテンがまたもや開いています。しばらく落ち着いていたのになんで? と思いながら窓を見つめていると、ふっと何かが窓辺をよぎったように見えました。
えっ? と思って目を凝らすと、もういません。向かって左隣の部屋もカーテンが開いているのが目につきました。こちらは例の無人の403号室です。部屋を傷めないためか、同じ灰色のカーテンがかかっていたような記憶があります。でも、その部屋のカーテンも開いていたのです。ぼんやりと光る淡い人影が窓辺に立ち、三秒ほどこちらを見ていたかと思うと、すっと消えていきました。カーテンの端がひらり、と揺れました。
その日以降、カーテンが勝手に開くことはありませんでした。
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