5. かえるのおんりょう

 僕はテレビがそんなに好きではありません。だからもともとこの部屋にはなかったのだけれど、一時期一緒に住んでいた相棒がテレビ好きで、出ていくときに置いて行ったのです。ニュースや天気予報は役に立ちます。それに、どうしようもなく寂しいときには、ネットを見ているよりテレビをつけっぱなしている方が気が休まると気づいてからは、ときどき利用するようになりました。


 バイトの残業で帰りが遅くなり、日付が変わる少し前にシャワーを浴びていたときのことです。ここ数日大学の課題に追われて寝不足が続き、シャワーを浴びながらうとうとしていました。そのときバスルームのほの暗いライトがチカチカと瞬き、それに気づいて目が覚めました。とにかく、はやく体を洗ってしまおうと水を止めて、ボディーソープに手を伸ばしたとき、居間のほうからかすかに人がしゃべるような音が聞こえた気がしました。でもそのときは疲れていたのでそれが何を意味するか深く考えもせず、そのまま体を洗って居間に戻ってきました。もちろんテレビはついていませんでした。


 六日後、再び帰宅が真夜中になりました。その日も急いでシャワーを浴びていると、またもやバスルームのライトがすうっと薄暗くなりチカチカと点滅しました。次の瞬間、ぼそぼそとつぶやくような物音が聞こえた気がしました。

 今度はシャワーを止めて耳をすまします。突然、けたたましい笑い声が響き、僕は飛び上がりそうになりました。すぐにバスルームの扉を開けます。ふつり、と音が途絶えました。しばらく耳を澄ましていましたが、なにひとつ物音はしません。

 さっきの笑い声はお笑い番組の声のようでした。出て確認しようかとも思いましたが、音が聞こえなくなったのだから、確認しても仕方ありません。僕はそのままシャワーを浴び続けました。

 シャワーを浴び終え、居間に戻ると、果たしてテレビは消えていました。電源を入れてみます。テレビがついた瞬間、うわっと叫び、耳を押さえました。僕が好む音量より、はるかに大きな音量に変わっていたのです。

 慌ててリモコンで音量をゼロに下げ、息をつきながら画面を見ました。お笑い芸人たちが鯉のように口をぱくぱくさせながらおどけた仕草をしていました。でもその顔つきはなんだか奇妙に白けていて、誰一人笑ってなどいないように見えました。画面の向こうから、全員がちらり、ちらりと僕の様子をうかがっているようにも見えました。


 それ以降、僕が夜遅くにシャワーを浴びるたび、テレビは勝手について、音量を上げて、消えました。

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