4. 清浄な部屋
冷蔵庫を開けて中をチェックしていたときに、奥の方にプリンが忘れられているのを見つけました。しばらく忙しくて、二週間くらい、ほとんど冷蔵庫を開けていなかったんです。おそるおそる手に取ってみました。賞味期限は二週間前に切れていました。でもカビははえておらず、変質している様子もありません。封を開けてみました。異臭はせず、むしろバニラとカラメルの甘いかおりが鼻をくすぐります。しばらく逡巡し、スプーンですくってみます。鼻に近づけてもう一度においをかぎ、甘いかおりに意を決して口に入れました。酸っぱくも苦くも臭くもありません。ゆっくり舌で押しつぶし、味とにおいを慎重に確認しましたが、賞味期限内のプリンと何ら変わりません。これなら、と飲み込み、残りもすべて食べてしまいました。特に体調を崩すことはありませんでした。
思い起こせば、以前からその傾向はありました。夏の暑い時期に、数日間、火を通さずにダイニングテーブルの上に放置していた汁物や煮物が腐ることなくいつまでも食べられたのですから。
実験してみよう、と思いました。近所の洋菓子店でイチゴのショートケーキを買ってきました。ひとつくださいとは言い出しにくくて、二個買いました。銀行でもらった皿に載せ、ダイニングキッチンの小テーブルの上に置きました。一日、二日、三日――。
今日で十日になりますが、しっかりと角の立ったホイップクリームはまばゆいばかりの純白で、赤いイチゴはむっちりと張りつめ、みずみずしく輝いています。甘ったるいバニリン臭と完熟イチゴのエステル臭が小さな部屋をいつまでも満たしています。
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