名もなき庭師は沼底で眠りながら残り火を探した

 名前とは魂の証左

 故に棄てた

 花筐の底に集え

 赤く紅く緋く足掻く

 時の間を掻い潜り

 向こう側の自分に呼び掛ける

 其処に集えと吠え猛る

 今を生きるは我が為に




【名もなき詩】


  救いがあろうとなかろうと

  さしたる問題ではないと言う

  その名を呼ぶ声など存在しないのだから

  ただただ世界を彩る事象にすぎず

  名もなき詩を幻影の世に捧ぐ


[螺旋が示した30番目の詩]




【庭師が黙して笑う空】


  散り逝くことを解する花よ

  滅びの色は妖艶に

  誇らしき赤は時を廻り

  憎らしき蒼は時を外れ

  終端を知らぬ空を模す


[螺旋が示した29番目の詩]




【沼底に沈んだ狩人】


  生命を断つは感情の使命

  肉体を屠るは環状の節理

  濁りの過去は浄化を拒み

  清らかな未来は不要と決め打ち

  時の間に男は沈む


[血塗れて探した22番目の詩]




【眠りが落丁された辞書】


  世界の全てを記す本

  全知なる賢者が残した宝

  闇夜と月光が消失した頃

  人々はその本を辞書と定めた

  歯車仕掛けの身体が歓喜に震えた時代


[血塗れて探した25番目の詩]




【残り火を踏み消す足音】


  片身が眠るゆりかごは

  炬火を落とせば開かれる

  されど響くは無常の足音

  辿り着いてはいけないと君は言う

  今に生きるは誰が為か


[彼が作った4番目の詩]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る