第11話



 「…ちょっと待って!」



 連れられるがままに、私の足は動いていた。


 猫は時々振り返りながら、早足になる私を置き去りにするように歩いた。


 しばらくすると、突き当たりに出た。


 正面には、「8番地区」と書かれた3階建ての建物があった。


 左右を見渡す。


 町並みは変わらなかった。


 ただ、通ってきた道よりも少しだけ細くなっていて、工場のような大きい建物や、同じ背格好の家が道なりに続いていた。


 商店や出店も、所々にはあった。


 猫はある場所で立ち止まっていた。


 それは正面の建物の横にある、ある書店の入り口だった。


 それが「書店」だと分かったのは、入り口の上に『中央書店』と書かれていたからだ。



 「ここは、8番地区っていう場所だよ」



 息を切らしながら近づいた私に、猫はそう言った。


 …8番、地区?




 「8番地区っていうのはね、この世界の“どこか”にある場所のことだよ」


 

 入り口の横には、見慣れない電話ボックスがあった。


 クリーム色のボディと、丸みを帯びた赤い屋根。


 ガラス窓の向こうに、ダイヤル式の赤い電話機が見えた。


 公衆電話かな?って思ったけど、公衆電話って言うと、普通は緑の四角いやつを想像する。


 けど、窓の向こうにある電話機は、まるで家庭電話機のような形をしていた。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る