第2話



 もうすぐ、私は30になる。


 結婚相手は決まってて、仕事も順調。


 学生の頃を思い返せば、月日が経つのはあっという間だなって思った。


 当時の理想はもうずっと遠いところにあるけれど、今の生活には、心の底から満足してる。


 今でも、時々思い出したりはする。


 “日本のエース”だって言われていたあの頃、私は10年も20年も、ずっと走り続けているんだろうなって思ってた。


 高く飛ぶことしか頭になかった私は、一日中陸上のことを考えてた。



 2mのバーを越えていくためにはどうすればいいか。


 踏み出す足の位置はどこか。



 そのことばかり、考えてた。


 明日のことなんてどうでも良かったんだ。


 今となっては、その気持ちが嘘のようだけど。

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