第14話 僕等の結末(ハッピーエンド)

今日はお昼頃から天気が悪くなりはじめた。


午前はとても快晴だったのにと僕は思ったが、天気が悪くなったのは予定通りであった。逆に悪くなってもらわないと困るくらいだ。なぜなら今日が僕の命日だから。

思い残すことはない。というのは嘘になるかもしれない。


あるとすれば、佐藤さんだ。

今の彼女は多分死ねない。

分かった風になるけれど多分そうだと思う。


僕はついこないだ『糸』が切れた。なにもかもがどうでもいい。どうなってもいい。人も物の自分自身さえも。

このタイミングで『糸』が切れた事は僕からしたら良かったのかもしれない。あのままの僕だと多分死ねなかった。死ぬ勇気が無かったと思う。


後は佐藤さんがどうするか。

僕からしたらどちらでもいいはずなのだが、何故か彼女がどうするか少し気になってしまう。



僕は今日が最後の日なので、父に料理を作り置きすることにした。普通の人なら最後の日は親孝行するものだと聞いたから。


僕が父にご飯を作るのはいつぶりだろうか?小学校の頃、あの幸せな時以来な気がする。あのときは忙しい父のために僕は母と一緒にオムライスを作った。卵が上手く作れなくて悔しかったけど、3回目にして綺麗にできた。僕と母のオムライスは崩れていたけどそれでもあのときのご飯はとても美味しく感じた。


僕は家族の事を思い出す。しかし、涙は出なかった。楽しい、嬉しいと思った事もオムライスを作った事しか思い浮かばなかった。


そもそも楽しいってなんだっけ?

僕はこの結論に達した。


僕はオムライスを作り、置き手紙をした。

『どうぞ食べてください。今まで迷惑をかけてごめんなさい』

父が僕が作ったオムライスを食べてくれるかは分からない。もしかすると捨てられるかもしれない。


まぁそうなってもいいか。


僕はオムライスを置き手紙と一緒に冷蔵庫にしまって、一足先に家をでた。

まだ夕方の時間。だが空は暗くなり雪が少し降っている。僕は9時まで少し歩くことにした。


僕は今まで気づかなかった、道や建物、植物を見つけた。


雨がだんだん強くなる。普通なら雪が降っていてもおかしくないが降っていたのは雨だった。まるで僕の自殺をお膳立てしているかのように思えた。


僕は近くのコンビニに入った。そこで温かいコーヒーを買って外を眺めながら飲んでいた。

僕は自分に可笑しくなった。これから死のうとしている人が暖かい場所で温かい飲み物をのんでいることがおかしくて。今頃、川はどうなっているのだろうか。



そろそろ9時になる。僕はコンビニから出て橋に向かった。

雨は家を出た時より強くなり、風も強く吹いている。

こんな日に外に出ているのは僕くらいだろう。


僕は橋で9時になるのをまった。

寒さで手が悴んできた。そんなこと気にしても意味がない。この後僕は死ぬのだから。


9時になる。佐藤さんは来なかった。もし佐藤さんがくるのなら僕はコンビニから橋に向かう途中に見つけた桑の花を渡そうと思っていた。しかし彼女は来ない。僕はまだ花を咲かせてない桑の花をポケットに入れた。


そして僕は橋から飛ぼうとした時、誰かがこちらへ走って来てくるのが見えた。

それは佐藤さんだった。


「ごめん」


佐藤さんは僕に言った。佐藤さんが謝った理由がわからなかった。


「来たんだ」


正直、佐藤さんは来ないと思っていた。僕は最後に川沿いで佐藤さんにあった時に彼女を突き放すようなことをいったから。


「うん」

「私、あの時死なない方が良いて言われてショックだった」

「私は君にあったときから一緒に心中するつもりでいたし文化祭のとき君は私と死ぬことを認めてくれたと思ったから」


「でも私はあのあと、なんで君があんなこと言ったのか考えたの」


「うん」


佐藤さんは僕が言いたかったことが伝わったらしい。


「峰田くんは今の私じゃ、死ねないと思ったからでしょ?」

「私は君と関わって行くたびに今の生活が少しずつ楽しいって思えてきた」

「だから、そんな事を思っている私がいきなり死ぬなんてできない」

「だから君は死なない方がいいって言ってくれたんでしょ」

「私が死ぬことに怖気づかないために。後悔しないために」


佐藤さんに伝わっていたらしい。


「そしたら、なぜ来てくれたんだ?」


僕は佐藤さんに聞いてみる。


「それはね、君と約束したから」

「せっかく私が口説き落として心中するってなったのに私だけ死なないのはずるいでしょ」

「私は約束は守るし、一度決めたら貫き通す」

「それに親戚の人たちにこれからも迷惑をかけるわけにはいかないからね」

「あとは、君が居ない世界なんて私からしたらどうでもいいから」


彼女は真剣な目で僕に言った。


「そっか」

「ありがとう」


あぁ、あの桑の花を捨てずに佐藤さんに渡せていたらな。

僕はそう思った。



僕等は一緒に橋の上に立とうとした。


その時、何かが落ちた。


「なにこれ?」


佐藤さんが拾った物は僕がポケットに入れた桑の花だ。


「それは、佐藤さんにあげようと思って持ってきてた」


「そうなの?」


佐藤さんは僕の顔を真剣に見る。


「うん」

「その桑の花、マルベリーの花の花言葉は『ともに死のう』」

「僕等にぴったりだと思ったから」


僕は佐藤さんに最初で最後の贈り物をする。

僕は佐藤さんに喜んでもらえたら嬉しかった。


しかし彼女は真剣な顔で、


「それだけ?」

「本当にそれだけなの?」


僕に言った。


僕はすぐに言葉の意味が分かった。


彼女は僕に言う。


「私もあなたが好きです」

「あなたの全てが...」


彼女は僕の返事を待っている。


しかし、僕は答えられなかった。

答えれば死ぬ覚悟が無くなると思ったから。


でも、僕は彼女になら僕の気持ちを素直に言えると思った。今までそうしてきたように。


「僕はあなたが好きです」


僕は初めて告白をした。彼女の返事はもう分かっている。




僕等は手を繋いで話をした。


「どうしよっか」

「...」


彼女の質問に僕は答えられない。


「私は君に『好き』と言ってもらえて嬉しい」

「できるのなら、私は君のためだけに生きていきたい」

「でも、君が死ぬというなら私も一緒にいく」

「峰田くんはどうしたい?」


僕は答えないといけない。彼女は僕に言ってくれた。それなら、僕もどうしたいか正直に言わなければならない。


「僕は...」

「僕も君と一緒に、君のために生きたい」


僕は泣いていた。なぜ泣いていたのかわからなかった。嬉しいから?悲しいから?今の僕には理由が分からない。


「そっか」

「そしたら、君は私のために私は君のために一緒に生きていこう!」


彼女もまた泣いていた。僕ほど涙は出ていなかったが、涙が少し溢れていた。



「今度は花を咲かせたマルベリーの花を頂戴ね」


彼女は笑いながら言った。

マルベリーの花は4〜5月の暖かくなる時期に咲く。僕はまず、佐藤さんにマルベリーの花を渡すことを目標に生活してみようと思う。


「わかった」


僕は彼女と笑った。


「寒いね」


「冬だからね」


僕は何気ない会話が嬉しいように感じた。


その時、車が1台僕等の前に止まった。


「君たち、学生でしょ」

「こんなときに何をしてるんだ」


僕等は警察の人に声をかけられた。

僕等は怒られた。でも嫌な感じはしなかった。

多分、佐藤さんと一緒にいるから。


僕等の生きる意味はお互いのため。僕には勿体ないくらい嬉しい事だった。

僕はこれからの生活が少し楽しみになったと思う。





〜少し〜

僕は家に帰った。

何も言わずこんな時間まで外に出ていたことがバレたらまた父に何をされるかわかったのもじゃない。僕はコッソリ部屋に戻ることにした。


すると勢いよく玄関が開いた。

そこに立っていたのは僕の父だった。


「あ...」


父がこちらに歩いてくる。

僕はまた殴られるのかと思った。


しかし父は僕を抱きしめたのだ。


「えっ?」


僕は意味がわからなかった。


「お前どこ行ってたんだ」

「お前までいなくなったら、俺は...」


父が泣いていた。僕を殴っていた父が僕を抱きしめた?

僕はあまりの出来事に思考が停止した。


「ど、どうしたんだ?」


僕は父に尋ねる。


「あのオムライスを食べた」

「母さんが居た時と同じだった。とても美味しかった」


父は泣いていた。


「俺がいままでしてきた事は許されることじゃない」

「俺を恨んでいい、許さなくていい、いままでの事をやり返しても良い」

「だが、お前まで居なくならないでくれ」

「お願いだ」


父は僕に土下座をした。

僕はいままで父にされてきたことを許すことができるか分からない。


「お願いします」

「お願いします」


しかし父はずっと頭を下にしたまま『お願いします』とだけ言っていた。

こんな父を見るのははじめてだった。


「顔を上げて、お父さん」

「僕は今までの事を許すことは多分できない」

「でも、僕は死なないから安心して」


お父さんはその言葉を聞いて、ようやく顔を上げた。


「本当か?」

「ありがとう」

「ありがとう」


お父さんを抱きしめて泣きながら言った。



「お父さん」

「もう一度、やり直そう」

「お母さんは居ないけれど、僕はお父さんとあの時のように楽しい日々を過ごしたい」


僕は僕の望みを言った。


「あぁ」

「俺も。仕事を探す」

「これからは直都を俺が守っていけるようにする」


僕とお父さんはお母さんがいた時のような日々を目指して過ごしていった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マルベリーの花 @okome012

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る