第13話 僕等の結末

今日はお昼頃から天気が悪くなりはじめた。


午前はとても快晴だったのにと僕は思ったが、天気が悪くなったのは予定通りであった。逆に悪くなってもらわないと困るくらいだ。なぜなら今日が僕の命日だから。

思い残すことはない。というのは嘘になるかもしれない。


あるとすれば、佐藤さんだ。

今の彼女は多分死ねない。

分かった風になるけれど多分そうだと思う。


僕はついこないだ『糸』が切れた。なにもかもがどうでもいい。どうなってもいい。人も物の自分自身さえも。

このタイミングで『糸』が切れた事は僕からしたら良かったのかもしれない。あのままの僕だと多分死ねなかった。死ぬ勇気が無かったと思う。


後は佐藤さんがどうするか。

僕からしたらどちらでもいい。

そう思った。



僕は今日が最後の日なので、父に料理を作り置きすることにした。普通の人なら最後の日は親孝行するものだと聞いたから。


僕が父にご飯を作るのはいつぶりだろうか?小学校の頃、あの幸せな時以来な気がする。あのときは忙しい父のために僕は母と一緒にオムライスを作った。卵が上手く作れなくて悔しかったけど、3回目にして綺麗にできた。僕と母のオムライスは崩れていたけどそれでもあのときのご飯はとても美味しく感じた。


僕は家族の事を思い出す。しかし、涙は出なかった。楽しい、嬉しいと思った事もオムライスを作った事しか思い浮かばなかった。


そもそも楽しいってなんだっけ?

僕はこの結論に達した。


僕はオムライスを作り、置き手紙をした。

『どうぞ、食べてください』

父が僕が作ったオムライスを食べてくれるか分からない。もしかすると捨てられるかもしれない。


まぁそうなってもいいか。


僕はオムライスを置き手紙と一緒に冷蔵庫にしまって、一足先に家をでた。

まだ夕方の時間。だが空は暗くなり雪が少し降っている。僕は9時まで少し歩くことにした。


僕は今まで気づかなかった、道や建物、植物を見つけた。


雨がだんだん強くなる。普通なら雪が降っていてもおかしくないが降っていたのは雨だった。まるで僕の自殺をお膳立てしているかのように思えた。


僕は近くのコンビニに入った。そこで温かいコーヒーを買って外を眺めながら飲んでいた。

僕は自分に可笑しくなった。これから死のうとしている人が暖かい場所で温かい飲み物をのんでいることがおかしくて。今頃、川はどうなっているのだろうか。



そろそろ9時になる。僕はコンビニから出て橋に向かった。

雨は家を出た時より強くなり、風も強く吹いている。

こんな日に外に出ているのは僕くらいだろう。


僕は橋で9時になるのをまった。

寒さで手が悴んできた。そんなこと気にしても意味がない。この後僕は死ぬのだから。


9時になる。佐藤さんは来なかった。もし佐藤さんがくるのなら僕はコンビニから橋に向かう途中に見つけた桑の花を渡そうと思っていた。しかし彼女は来ない。僕は橋からまだ花を咲かせてない桑の花を捨てた。


そして僕は橋から飛ぼうとした時、誰かがこちらへ走って来てくるのが見えた。

それは佐藤さんだった。


「ごめん」


佐藤さんは僕に言った。佐藤さんが謝った理由がわからなかった。


「来たんだ」


正直、佐藤さんは来ないと思っていた。僕は最後に川沿いで佐藤さんにあった時に彼女を突き放すようなことをいったから。


「うん」

「私、あの時死なない方が良いて言われてショックだった」

「私は君にあったときから一緒に心中するつもりでいたし文化祭のとき君は私と死ぬことを認めてくれたと思ったから」


「でも私はあのあと、なんで君があんなこと言ったのか考えたの」


「うん」


佐藤さんは僕が言いたかったことが伝わったらしい。


「峰田くんは今の私じゃ、死ねないと思ったからでしょ?」

「私は君と関わって行くたびに今の生活が少しずつ楽しいって思えてきた」

「だから、そんな事を思っている私がいきなり死ぬなんてできない」

「だから君は死なない方がいいって言ってくれたんでしょ」

「私が死ぬことに怖気づかないために。後悔しないために」


佐藤さんに伝わっていたらしい。


「そしたら、なぜ来てくれたんだ?」


僕は佐藤さんに聞いてみる。


「それはね、君と約束したから」

「せっかく私が口説き落として心中するってなったのに私だけ死なないのはずるいでしょ」

「私は約束は守るし、一度決めたら貫き通す」

「それに親戚の人たちにこれからも迷惑をかけるわけにはいかないからね」

「あとは、君が居ない世界なんて私からしたらどうでもいいから」


彼女は真剣な目で僕に言った。


「そっか」

「ありがとう」


あぁ、あの桑の花を捨てずに佐藤さんに渡せていたらな。

僕はそう思った。



僕等は一緒に橋の上に立つ。

「佐藤さん」

「思い残すことはない?」


僕は最後に佐藤さんに問う。


「うーん」

「もう少し君と一緒と居たかったけど君は今死んじゃうんでしょ」


「うん」


「なら特にないかな」


佐藤さんは笑顔でいった。


僕は心の底からの笑顔の作り方がわからなかったけど、笑ってみた。


上手く笑えてるかわからなかったけど僕は佐藤さんの笑顔だけでも見れてよかったと思った。




こうして、僕たちの人生は幕を閉じた。




僕は佐藤さんに後悔はないか尋ねたが、僕には少しあった。

あの、桑の花を佐藤さんに渡せなかったこと。

桑の花(マルベリー)の花言葉は、


『ともに死のう』



『彼女のすべてが好き』


僕は佐藤さんが好きだったみたいだ。もしも来世があるのなら、来世で佐藤さんに会えるのなら僕は必ずマルベリーの花を渡すだろう。



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この話はここで終わりです。

ハッピーエンドも書いたので良かったら見ていってください。

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