第12話 青いスズメダイ
冬休み前、私は峰田くんと遊ぶ約束をした。
あのときの彼は糸が切れたような感じだった。
私は峰田くんが言いたくないことは聞かないことにしていたが、あのときの彼は最近の表情とは全く違っていた。
あの日の放課後それともバイトもしくは家でなにかあったのだろうか。
私はあまり人とは馴れ合わないのでどうやって接すればいいのかわからなかった。
『遊ぶっていってもどこで遊ぶの?』
峰田くんから連絡が来る。
峰田くんを遊びに誘ったのも私が今できる精一杯のことだった。
『近くの水族館とか』
この前の映画の時はとても楽しみだったが私の気持ちは、楽しみよりも心配が勝っていた。
『わかった』
『峰田くんは大丈夫?』
私はあのときの峰田くんが心配だったので聞いてみる。
『何が?』
『僕に予定はないから全然大丈夫だよ』
峰田くんは私に心配をかけないようにしているのだろうか?
でも私は彼が心配だったから水族館に誘った。
少しでも元気になってくれたらいいと思って。
それでも、私は今の峰田くんに自分から声を掛けることはいつも以上の勇気が必要だった。
〜水族館〜
「お、おまたせ」
私は待っていた峰田くんに声を掛ける。
今日の彼はこないだ川沿いであったときとは少し元気になっていたように見えるが、それでもあの楽しそうなときとは全然違うように見えた。
「今日は誘ってくれてありがとうね」
彼は私を見て言っているが私には自分が見られていないように感じた。
私ではなくもっと遠い所に焦点を当ててるような...。
「行こっか」
私は峰田くんに言われるがまま水族館に入った。
水族館はすごかった。
大きな水槽に小さな魚や大きな魚がいた。ドーム状の水槽の中も通って見た。
そして私達はある水槽にたどり着いた。
彼は一匹の魚を見ていた。それは綺麗な青色のスズメダイだった。
この青いスズメダイは仲間がいなく、一人で水槽を泳いでいた。
彼はこの魚になにか思うことがあるのだと思った。
私は近くの椅子で青いスズメダイを見ている峰田くんを待つことにした。
「ごめん」
峰田くんが椅子に座っている私に気づいて謝る。
「全然いいよ」
「この魚ね...」
峰田くんが喋るのを私は黙って聞いた。
この青いスズメダイは気性が荒く混泳する生き物には限られる。
ヒレも弱く、持ち運ぶときは気をつけないとすぐボロボロになるらしい。
青いスズメダイは仲間とは同じ水槽に入れることはできない。
こんなにも美しい魚が。でも峰田くんは仲間と暮らせない事、一緒にいると攻撃されることに親近感を覚えたみたいだった。
彼も同じく仲間(人間)から攻撃されて今、彼の心は青いスズメダイのヒレよりもボロボロになっている。
私は彼の気持ちに同情してしまった。
今までの私ならそんな事はしなかった。しかし、私は自分と似た目の彼と出会い彼に関わって行くたびに私は変わっていった。
その後、私たちはイルカショーを見て、いつもの川沿いに来ていた。
「寒いね」
「うん」
私も峰田くんも川をじっと見ていた。
「ねぇ佐藤さん」
「今度の土曜日の夜、天気が相当荒れるみたい」
「僕はその日にしようと思う」
「うん」
その日とは多分、死ぬ日だろう。
「でね、佐藤さん」
「君は死なない方がいいと思うんだ」
私は彼を見る。
峰田くんの表情はとても穏やかだった。
「なんで?」
私はあの文化祭の日から峰田くんと心中するつもりでいた。しかし、彼は私を置いて一人で死ぬというのだ。
「最近の佐藤さんとても可愛いと思うんだ」
「意味がわからない」
私が可愛いからって私が死なない理由にはならない。
「僕と関わってきてから佐藤さんはとても表情豊かになったと思う。前は全て諦めたような顔をしてたけど今の佐藤さんはそんなことない」
「今の佐藤さんなら大切なものも大切にしたい人も見つけられると思う」
「でも、それでも僕と一緒に死んでくれるなら僕はそれでもいいと思ってる」
私は何も言えなかった。
「今度の土曜日の夜9時頃、僕は君に初めてあった橋に行く」
「佐藤さんもう一度よく考えてほしい」
「君にはまだ手を伸ばせば届くものがあると思うよ」
私は一方的に話しをして帰っていく峰田くんを見送った。
僕は帰り道、桑の木を見つけた。
花はまだ咲いていない。
桑の木(マルベリー)の花言葉は「ともに死のう」少し前の僕等にピッタリの花だった。
この花を佐藤さんに渡そうと考えたが、僕は辞めた。
今の彼女は僕とは違うような気がしたから。いい意味で今の彼女は初めてあったときと違って変わったから。
僕は彼女のためになるようにあの言葉を言ったが、少し寂しい感じもした。
僕はイジメが再開してからこの日だけを見てきた。できれば今度の土曜日は誰にも邪魔だけはされたくない。これまで何度も邪魔されてきた。近所の人、パトロール中の警察官、そして佐藤さん。しかし初めて佐藤さんに死にたいってことを話して少し楽になれたが、それでも僕の気持ちは変わらなかった。
これが最後のチャンスになるだろう。
僕はそう感じた。
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