第3話 バイト

「今日からよろしくお願いします」


僕は今日から飲食店でバイトを始める。


「今日からよろしくね」


優しく声をかけてくれたのは店長さん。


「明石くん、しばらくこの子の教育お願いできる?」


「えー、俺っスか?」


嫌そうだ。


「もう少ししたらもう一人新人が来るからさ」

「その子も君に頼みたいんだよね」


「えーなんで2人も見ないといけないんスか」


新人教育を頼まれた明石さんはとても面倒くさそうにする。


「その子とてもかわいいから任せたよ」


店長が明石さんに耳打ちをした。


「わかりました、任せてください」


明石さんはとてもやる気が出たみたいだ。



〜5分後〜



「遅れてすみません」


そう言ってやってきたのは、一人の綺麗な女の人だった。


僕がバイトをはじめた理由は2つあるがそのうちの1つはなるべく彼女(佐藤凪沙)から距離を置くことだった。しかし、


「佐藤凪沙です、今日からよろしくお願いします」


表情も変えず愛想もなく自己紹介していた彼女、僕が距離を置こうとしていた人物が今僕の目の前にいるのだ。



「それじゃあ説明は以上ね」

「2人とも今日は初めてだから接客からね」


新人の世話係をあれほど嫌がっていた明石さんがびっくりするほど機嫌が良くなった。


「わからない事があったらいつでも聞いてね」


明石さんは初めから最後まで佐藤さんだけを見て説明をした。


僕のことは見えてないのだろうか?


僕は佐藤さんと話をしないまま仕事に取り掛かった。



「あの、おしぼりの補充はどこですか?」


僕は言われた通りわからないことを明石さんに聞く。


「えっと...」


明石さんが機嫌よく振り向く。


「何だ君か」

「おしぼりは、えーとっ」

「あそこの人にでも聞いたら?」


佐藤さんじゃなくてすみませんね。


どうやら僕はここでも良いように思われてないらしい。



「お疲れ様でした」


僕はバイトを終えて帰る。


「ねぇ、なんでここでバイトをすることにしたの?」


佐藤さんは店から出た僕に話しかける。


「ここ時給いいから」


「佐藤さんは?なんで?」


同じ質問をする。


「私も同じ」


「そっか」


僕等は黙って歩く。


多分、佐藤さんは『なんでバイトをはじめた?』って聞きたかったのだろう。


しかし、僕は言いたくない。特に家の事など。


帰り際の分かれ道、


「それじゃ僕はこっちだから」


そう言って佐藤さんと別れようとする。


「待って」

「連絡先だけ教えて」


佐藤さんから思わぬ提案が来た。


「なんで?」


当然僕は理由を聞く。


今日のバイトを見ていても彼女は人気者だ。まして学校でも彼女を狙ってる男子は少なくない。しかし、彼女は『孤高の氷姫』とあだ名が付くくらい人と関わっていない。そんな彼女と僕が連絡先を交換したことが知れ渡ったら、また何をされるかわからない。


僕は悪い未来を避けられるのなら絶対に避ける。


「今日、いつもの川沿いに行った」

「今日からバイトだったからそれを伝えようとギリギリまで居たけど峰田くん来なかったから行けない日は連絡できたらいいと思った」

「それだけ」


これは僕が悪かったのか?


「わかった」


今回は僕が悪かったような気がしたので素直に佐藤さんと連絡先を交換した。


僕はどうしてそこまでして、僕と一緒に死にたいのか聞こうと思ったが、さっき僕も彼女が求めている答えを言わなかったので口には出さないことにした。


「じゃあ、シフトわかったら連絡するから」


「うん」


こうして僕は佐藤さんと同じバイトをすることになった。

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