第4話 日常

僕は今日もいつもの川沿いに来ている。


「今日こそ」と思いながらも橋の上に立つが毎回通行人や車が通っているのでなかなかできない。


できれば一人が良いのだがいつも佐藤さんがいる。


僕たちはバイトをはじめたので前よりは一人の時間は増えたがそれでもなかなかタイミングがみつからない。


「やっぱり天気が荒れているときかな」と、僕は毎回橋の上でも川沿いでも思う。



「ただいま」


僕は家に着く。


「おい!」

「金!」


父は酒に酔った口調で帰ってきたばかりの僕に怒鳴った。


「いや、このお金は今月の食費で...」


「は?知るか、そんなもん!」


父は仕事を辞め酒に溺れていた。


僕の父親はもともとこんなのでは無かった。


昔の父は優しく頼りになる人だった。しかし、5年前に母親が病気で亡くなった。父はすごく落ち込んだ。それでも父はまだ僕には弱い所を見せず強い父親であり続けようとしていてくれたのだ。しかし翌月、父が経営している会社が潰れた。話しによれば父の会社を敵対視している会社から間接的に攻撃を受け一気に会社は衰退。そのまま父の会社は潰れて行った。母が亡くなりその翌月には父の会社が潰れ僕の父親は家にあったお酒をやけのみし、初めて僕に手を上げた。そこから、僕は父の機嫌が悪くなれば僕に当たる事が増えた。お金は母親が貯金していたものを使っていたがそれも底を付きそうだったため僕はバイトを始めることにしたのだ。


こんな事誰にも言える理由もなく一人で頑張って行こうと思ったが、母親が居ないこと、父親の会社が潰れたことはすぐに広まった。


そのことが原因で僕は一部の人からいじめを受けている。




つくづく思う。

「しんどいなぁ」と。




誰も助けてくれない。人も神も。


普通の生活に戻りたいと。もう一度優しい笑顔で笑う父が見たいと。

何度も思った。でも、何も叶わなかった。


せめて、楽になりたい。でもそれも叶わなかった。チャンスはあった。しかし、それも邪魔され、僕は今、苦しい、辞めたい、諦めたい、そんな道を一人で歩いている。




「みなさーん」

「来月は文化祭です」

「何がしたいか話し合って決めておいてください」


来月は文化祭。僕たちはクラスで何をするか話し合う事になった。


「お化け屋敷で良いんじゃないですかー」


斎藤遊真が意見を出す。


「ちょうど適任もいるし」


僕の方を見て笑いながら言った。

始まった。斎藤遊真の僕いじり。先生はクラス委員に任せっきりで教室に居ないことを良いことに斎藤遊真とそのグループに属する人たちは僕をいじり始める。

結局僕のクラスは『お化け屋敷』に決定した。

皆は何も言わなかった。言えば次の標的にされるから。



「ねぇ、なんで言い返さないの?」


いつもの川沿いで佐藤さんに聞かれる。


「前にも言わなかったか?」

「下手に発言してイジメがエスカレートするなら何も言わずに現状を受け入れる方がまだ楽なんだよ」


「そういうもんなの?」


佐藤さんにはわからないだろう。

佐藤さんみたいに顔もスタイルも良いわけじゃないから無視すればすぐ調子に乗ってると思われる。


「君にはわからないよ」


「そうかもね」

「それで、いつ一緒に死ぬ?」


彼女は僕に質問する。


「決めてない」


「そう」


彼女はなぜか僕と一緒に死ぬ事に固執する。


僕には彼女の行動がわからなかった。

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