第2話 忠告

僕等2人は川沿いで会うようになった。

喋らない日もあれば、学校の情報を共有する日もある。

僕は彼女がいない時を狙って死のうと思っていたが、そんなスキがないほど彼女は毎日ここへ来る。雨が降っていても。


「佐藤さんのために言うけど僕とあまり関わらないほうが良いよ」


僕は彼女に忠告する。

僕と関わりを持てば佐藤さんもいじめられる。


「なんで?」


「それは僕が...」


「「いじめられているから」」


彼女が言葉を被せる。


「知ってたんだ」


「うん」


同じクラスになったのなら流石に彼女も気づく。


「そしたらなんで僕なんかに関わるの?」


「それは、君は私と似ている部分があるから」


僕が佐藤さんと似ている?


「どこが似ているんだ?」

「自殺願望?」


「それは合ってるようで違う」


佐藤さんは変な答え方をする。


「じゃあなんだ?」


「今はまだ教えない」


結局、佐藤さんは教えてくれなかった。


「なんにせよ、僕とは一緒に居ないほうがいいよ」

僕はそう言って家に帰った。



次の日、


バンッ!


「オースッ、峰田」

「今日も学校に来ていて偉いでチュね〜」


今日も斎藤遊真は僕をカバンで殴り煽る。


僕はこの一連には慣れた。いや何も感じなくなったと言うべきか。初めこそ嫌だったが口を開けばもっと殴られる。僕はどれだけ殴られないかを考えた結果何も言わないほうが良いという結論になった。


「なぁ峰田」

「今日、金忘れてさお昼ご飯を買う金がないんだわ」

「悪いけど、3000円貸してくれね?」


斎藤遊真は僕にお金をせびるようになった。


「そんなにお金もってないんだけど...」


僕はできるだけ渡さないようにしたい。


「は?知るかよ」


そう言い斎藤遊真は僕のカバンから財布を取り1000円札を取っていった。


「100円か、まぁいいや」



「おはようございます」


先生が教室に来る。


「今日初めにアンケートをしてもらいます」


紙が回される。


それはいじめに関するアンケートだった。


内容は、

・あなたは誰かをいじめたことはありますか?

・あなたの近くでいじめのような事は起きていませんか?

・あなたは誰かがいじめられているのを見たことがありますか?


そして、

・あなたはいじめられていますか?


僕は迷った。


ここで、『はい』にマルをすれば先生がなんとかすると思う。が、これは間違いだ。いじめがあると分かったとしても、いじめが無くなるわけではない。最悪、先生がいじめを認識し首謀者達に聞けばいじめはエスカレートする。これが事実だ。

僕は自分の心に目をつぶりながら全て『いいえ』にマルをした。


お昼、


「ちょっと来い」


僕は斎藤遊真に呼ばれた。要件は分かっている。朝のアンケートだ。


「お前、俺達にいじめられてる事を先生に言ったのか?」


そう聞かれ、僕は殴られる。顔だと傷が目立つため、服を着ている所を中心に。


「だ、誰にもいってない」


「じゃあ、なんで朝あんなアンケートをしたんだよ」


「お前、1つも『はい』って書いてないよな?」


彼らはこの確認をしに僕を呼び出したのだろう。


「してない」


僕はお腹を殴られ、苦しかったが答える。


「そうか」


そう言い、斎藤遊真達は気が済むまで僕を殴り帰っていった。

僕は今回のアンケートの件に少し心当たりがあった。


放課後、

いつもの川沿いで、


「いるのか」


彼女は今日もここにいた。


「僕に関わるなって言ったよな?」


「言われたね」


彼女は僕の方を見ずに本をみながら返答する。


「なんで今日もここにいるんだ?」


「別、ここに来たらたまたま君がいるだけ」


「そっか、じゃあ僕はここにはもう来ない」


「わかった」


そう言って僕は離れようとする。すると佐藤さんも立ち上がり僕に着いてくる。


「なんでついてくるんだ?」


「勝手に死なれては困るから」


「なんで?」


「...」


佐藤さんは答えない。


「佐藤さんには関係ないでしょ!」


僕はいままでになく強い口調で言った。


「なに八つ当たりしてんの?」


佐藤さんが言い返す。


「八つ当たりなんかしてない」


「してるよ」

「君は今お昼に斎藤くん達に呼び出されたことを私に八つ当たりしてるんだよ」


彼女は無表情でそういう。


わかっていた。僕がイライラしているのは。ただ、これは本当に八つ当たりではない。


「これは八つ当たりじゃないよ」


「じゃあなに?」


僕は佐藤さんの問いに答える。


「佐藤さん、僕がいじめられていること先生に言ったでしょ」


「なんのこと?」


佐藤さんはシラを切る。


「クラスのみんなが今更、先生に言うわけがないんだよ」


僕は佐藤さんを問い詰める。


「そうだよ」

「私が言った。昨日君と別れ後、匿名で学校に『そちらの学校でいじめられているせいとがいます』ってね」


「余計な事しないでくれる」


僕は佐藤さんに言った。


「その一言で僕はあの後殴られる必要もない時に殴られ今後も学校では見張られるようになるんだぞ」


これだけ言えばさすがの佐藤さんもわかってくれると思った。


「本当に峰田くんはそれでいいの」

「今日学校であの人達にお金渡してたでしょ」


彼女は朝の事を見ていたらしい。


「そうだけど、佐藤さんには関係ないよね」

「今後は余計なことはしないで貰える」


僕は彼女に念を押す。


「わかった、君が言うならそうする」

「ただ、今後も川沿いには来て、死ぬなら私も一緒に死ぬから」

「じゃないと先生に名前をだして全部報告するから」


彼女はとんでもないことを条件に出した。いじめを受けている人ほど勝手に先生に報告されては困る。


「わかったよ」


そう言って僕等は解散した。

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