第1話 カウントダウン
私の名前は、エミリー・ファインズ。
大陸最南端にある小さな村でファインズ家の一人娘として生を受け、果物栽培で生計を立てていた両親のもと、たくさんの愛情を注がれ、私は育てられた。
私の住む村は、大陸最南端の土地柄なのか、
温暖な気候も相まって陽気な人達ばかり。
そんな村のみんなが、私は大好きだった。
その中でも一人だけ、特別に大好きな人が
いる。
彼と結婚して家庭を築き、大好きな人の子供を生んで、家族みんなで仲良く平和に暮らしていきたい。
それが私の将来の夢。
でも、この世界は恐怖に包まれている。
魔王が統べる魔王軍が、この世界を蹂躙していたからだ。
世界の人々もバカではないのだ。ただ指を咥えて魔王軍の侵攻を待っているわけじゃない。
いつか自分達がいる大陸に魔王軍が侵攻してきた時に備え、それなりの準備をしている。
村の学校の先生が、歴史の授業でそう教えて
くれた。
私は思った。
魔王や魔王軍なんてこの世からいなくなればいいのに。世界の人々を苦しめる悪い奴らだ。悪い奴らはみんなみんな死んじゃえばいいと。
そして……。
ある晴れた暑い日の午後にそれは来た。
――突然の凶報。
〈魔王軍、大陸最北端に現る〉
悪夢のような凶報は、瞬く間に大陸全土に広がることとなる。もちろん、私の住んでいる村にもだ。
この日、奇しくも私の16才の誕生日だった。
魔王軍侵攻の凶報から数日、特に何か生活が激変したかというと何も変わっていない。
魔王軍が侵攻してきた最北端と村がある最南端はかなりの距離があり、私を含め村の人達も
どこか他人事のように感じてしまっていた。
大陸中央には、王都があって最強の騎士団が数十万人駐屯しているし、勇者様が率いる勇者パーティーだっていると聞いた。
きっと大丈夫。うん、大丈夫だ。
魔王軍なんて騎士団と勇者様達が蹴散らしてくれるはずだから。
――村の生活は平穏そのものだった。
私は、16才になってから家業の果物栽培に従事している。学校に通っていた時は授業が終わってからお手伝いをしていた程度だったけど、成人を迎えたし、ファインズ果物園の跡取りとして日々修行中って感じで頑張っている。
父と母は、いつも冗談まじりに「婿養子よろしく頼むね」と言ってくるので、何も言い返せず、顔を真っ赤にして俯き黙ってしまう私。
婿養子候補なんて……私の中ではたった一人しか思い浮かばないよ。
「ファインズさん、エミリー」
後ろから私達を呼ぶ声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声に私達が振り向くとやはり
声の主は村長さんだった。
いつもニコニコと朗らかに笑ってる村長さんだけど、初めて見る神妙な顔つきに何か大変なことがあったんだなと察することができた。
「ファインズさん、エミリーを連れてすぐ教会に行ってくれ!」
「何事ですか? 村長」
父も村長さんの様子がおかしいと思ったのか
事の次第の説明を求めるように聞き返す。
「教会に行けば分かる。早く向かってくれ」
少し怒気を孕んだ命令口調の村長さんに私達は従わざるを得なく、急いで教会に向かった。
週に一度は、礼拝するために訪れる教会。
通い慣れた教会のはずなのに、なぜかいつもとは違う感じがしてならない。
村長さんに促されるように扉を開き、教会の中に入るとそこには白銀の鎧を身に着けた騎士が10人ほど祭壇の前に整列している。
壁際には、この教会の神父様が凄い緊張した面持ちで立っている。
村長さんは、両親の手をグッと掴むと強引に神父様のいるところに二人を連れて行った。
私も両親もこの状況がまったく理解できずに戸惑っていると、一目見れば序列が高いだろうと私でも分かるような高貴な祭服を身に纏っている人が祭壇中央で凛として立っていた。
私と目が合うとにっこり笑いかけてくれた。とても親しみやすい笑顔に私も自然と笑顔になる。
その人は、一歩前に出ると私に向かって静かに言った。
「私は、教皇です。エミリー・ファインズは〈神の信託〉により、聖騎士に選ばれました。これからは聖騎士として魔王軍と戦ってもらうことになります。神のご加護があらんことを」
この時からだと確信して言えることがある。
私が死ぬまでのカウントダウンが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。