Over And Over
前田ヒロフミ
プロローグ
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ」
一人の女がとてつもない高さの断崖絶壁を背に呼吸を整えている。
その崖から落ちたら終わり。いくら聖騎士である女であっても死ぬのは確実な魔天崖。
(死にたくない……死にたくないよ……ダメ! 弱気になるな私! 私は死ねない。このお腹の子のためにも絶対に死ねないんだから)
――母は強し。
まさにそう表現するのが正しいだろう。死の恐怖でぐちゃぐちゃに歪んでいた顔がキリッと引き締まる。
その顔は、世界中の人々が恋い焦がれ憧れた聖騎士エミリーであった。
聖剣と神剣、二本の剣を十字にして構えるとエミリーは眼前の敵である男と対峙する。
「私は、生きるためにあなたを殺す」
決意に満ちた表情で言い放つ女とは対照的にその男は無表情であった。
この女と問答などまったくする気もない感じなのか、男は腰に差した刀に手をかけると必殺の居合斬りの構えをする。
「死ねよ、クソ女」
その言葉を聞いた刹那、目に見えぬ二連斬撃の抜刀によって、聖剣と神剣が脆くも真っ二つに破壊される。
ギョッと驚くエミリー。
「そ、そんな……ま、待って……いや……死にた……」
次の瞬間、女の体は斬り裂かれていた。
――走馬灯。
人は死の直前、走馬灯のように色々なことを
思い出すという話がある。
嘘か本当か。そんなものは死の直前になった者にしか分からないが、もうすぐ死を迎えるであろうエミリーは、走馬灯のように色々なことを思い出していた。
玉木奏もエミリー・ファインズもどうしようもないクソ女だったなと自覚はある。NTRエロ漫画のヒロインを二人の女は地でいっていた。
エミリー・ファインズにとって、何より最悪だったのは、玉木奏を寝取った男がこの世界で魔王として転生していたこと。
――
魔王と初めて相対した時、エミリーは激しく動揺した。
玉木奏を快楽の渦に引き込んで抜け出せなくした男であり、玉木奏がこの世で一番愛した人を殺した男。
「魔王、お前を殺してやる!」
今の私は玉木奏ではなく、魔王軍を駆逐する聖騎士エミリー・ファインズだ。もう同じ過ちは二度と繰り返さない! 誓いを新たにすると魔王を殺すべく斬りかかった。
エミリーのオーラに反応するように、彼女の愛剣である聖剣と神剣が黄金色に光り輝く。
「神の加護をこのエミリーに与え給え〜!!」
――人間の本質はそんな簡単に変わらない。
エミリー・ファインズは、魔王によって快楽の渦に引き込まれ抜け出せなくなったのだ。
Over And Over
過ちは、繰り返される。
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