10.航海記
処刑当日
雨は降り続けていた。
王国には小さなコロシアムのようなスペースがあり、昔は様々なパフォーマンスがここで披露されていた。
ルイスとオリビアはコロシアムの真ん中で、待機をしていた。
裏切った海賊の手下たちが地下牢からエディを連れてきた。
見ている国民全員が騒ぎ立てる。
「来たぞ!」
「コイツが死ねば、王国を取り戻せる!」
「早くやっちゃってくれ!」
「悪魔め!」
エディはルイスの前に雑に放り出される。
ルイスは剣を抜き、エディの頭を掴む。
オリビアは処刑の瞬間を国民に見せないために、布を広げる仕事をルイスに頼まれた。
オリビアにとっては見ていられない仕事だった。
「何か言い残したことはあるか?」
ルイスはエディに聞く。
「……はは。オレはもうあんたに十分言ったよ。」
ルイスは黙る。剣をエディの首の後ろへ置く。
「僕は君が大嫌いだ。」
ルイスは上から剣を振りかぶり、エディの首を切る。
「……っ!」
オリビアはすぐにエディを隠した。
「うぉぉぉおお!!!」と国民は歓声を浴びる。
海賊も「今夜は宴だぁ!」と喜ぶ。すると、海賊二人のうちの一人が船に戻らないかと提案する。もう一人も続ける。
「船長はいなくなったわけだし。この王国は用済みだろう。」
他の海賊らは共感し、一気に海賊船へ戻った。
ルイスとオリビアは、別室へエディを運びに来た。
「仕末は僕がする。オリビアは、仕事に戻るよう指示を頼む。」
「…はい、ルイス王子。」
オリビアはエディを見たあと、静かに部屋を出ていく。
ルイスはエディを見る。
「……。」
エディは目覚めた。
「はっ……。オレ、生きてる?!おいあんた!なんで殺さなかったんだよぉお!!」
エディはルイスの服を引っ張る。
「……。首を落とせば罪が消えるとでも思ったのか…?自分が死ねば、僕は許すとでも?都合が良すぎるんだよ……!」
「オレはこの国の敵だぞ……。死ぬべき人間だろ…。」
「貴様が死んだところで、貴様自身が変わらなきゃ意味がないだろ!罪を償うために死ぬのは逃げるのと同じだ!エディ、貴様を国外追放とする。水平線の彼方先で自分を改めろ。二度と僕に、その顔を見せてくるな!」
「…そんなんで……いいのか………?」
エディは目を見開く。
その言葉はまるで、変わった姿でまた会いに来いと遠回しで言ったかのように聞こえた。
偽り続けたエディは今この瞬間、変わるきっかけをルイスが作ってくれたのだ。
ルイスの優しさに、エディは救われた。
雨は止み、晴れてくる。
外から光がさすと同時に
エディは思わずルイスの口を奪ってしまう。
「…ッ!貴様!!」
「…ルイス……ありがとう……!こんなオレに…ッ……。」
エディは涙が溢れ、震えた声で話す。
「オレは、変わるよ。本当のルイスに愛してもらえるように。ルイス。今までもこれからも…ずっと好きだ!」
エディは満面の笑みを見せ、走り去る。
「…眩しい。」
ルイスは空を見上げる。
オリビアは国民に指示をしたあと、海の方を眺めていた。
実は、海賊が戻った海賊船にダイナマイトを仕掛けていたのだ。これは、昨夜話しかけてくれた海賊二人の提案であった。
海賊への復讐が出来て、オリビアは満足していた。
(海賊ってなんであんなバカなの。呆れる。…でも、エディ。貴方は少しだけ、カッコよかったよ。)
と、オリビアは心の中で語った。
エディは海賊船に乗って帰ろうとしたが、もう遠くの方にあった。
置いてかれた!と思ったが、その瞬間海賊船はドッカーンと爆発した。
エディは理解が追いつかなかった。
帰り方が分からず困っていたら、ルナが小さいボートを持ってきてくれた。
「おお、やるじゃねぇかルナ!これで帰れそうだ!」
エディはルナを持ち上げる。
「ありがとな、ルナ。ルイスのこと、頼んだぞ。」
「ワン!」
ルナは元気に返事をする。
エディは船に乗った。
雨上がりの空。無限に広がる青い海の上で
旅鳥は鳥籠を捨て、羽ばたいたのである。
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