3.聖夜の贈り物

無人島から出港して数時間。


うっすらと大きな陸地が見えてきた。陸地の少し曲がったところに入港する。


スウェーデンに訪れた。


ルイスとエディは過去に来たことがあるかのように話す。


オリビアは「来たことあるの?」と聞く。


「うん!クリスマス近くになると、いつもここに来るんだ。スウェーデンのクリスマスは雪が降ってて綺麗なんだよ〜!美味しいご馳走もいっぱい!」


ルイスは笑顔で説明する。オリビアはそっけない反応をする。


「でも、その前に僕たちは働かなきゃね!」


「しょーがねぇ!酒のためだぁ!」


オリビアはこの後のことを全く想像ついてなかった。


少し歩くと、遠くからオリビアくらいの少女が手を振って走ってきた。


「おーい!久しぶり!また戻ってきたんだね!」


その少女はルイスたちの知り合いだった。


ルナは興奮して少女の周りを走り回る。


「ルナ〜!元気そうだね!あはは!」


「カロリーナさん、こんにちは!またしばらくの間泊まらせてもらってもいいかな?」


「いいよ!その代わり、ちゃ〜んと働いてもらうわよ?特にエディ!サボったら給料下げるからね!」


「それだけは勘弁してくれよぉ!リーナたん!」


オリビアは三人の会話に入れず、静かに眺めている。


少女はオリビアを見て、ルイスに質問をする。


「ねぇ、ルイスくん。この子は?」


ルイスは答える。


「あー、そっか。この子はオリビアちゃん。昨日出会ったんだ。」


「へ〜!」


少女はオリビアに近づき、両手を握る。


「初めまして、オリビアちゃん!私はカロリーナ!家がパン屋で、私も学校がない時は働いているの!」


オリビアはあまりの近さに戸惑い、距離を置きながら目を逸らす。


「あ…うん。」


カロリーナはルイスたちを家に連れて行き、オリビアにはパンの焼き方など仕事を教えた。



カロリーナが家にいない間は、ルイスたちが働く感じで、少しずつお金を稼いでいった。


パン屋が休みの時は、ルイスたちも休暇を取る。この日は、カロリーナとオリビアでスウェーデンの観光をしたり、ショッピングをしたりして楽しんでいた。


可愛い服やアクセサリーを見に行って、満足していた二人。


夕方になってきて、家に帰ろうとすると、カロリーナの足が止まる。


「あ!ねぇ、オリビアちゃん!この際、イメチェンしてみるのはどう〜?」


とカロリーナは提案する。イメチェンをよく理解していないオリビア。


「長い髪もかわいいけど、これから旅をするなら短い方が動きやすいんじゃないかなって思ったの!それに〜、イメチェンするとね、男は意識しちゃう傾向があるの!エディとかだったら、見た瞬間目が離せなくなっちゃうんじゃないかなぁ〜?」


「絶対にない。」


オリビアは即答する。カロリーナは驚く。


「私、別に一緒にいたくているわけじゃないし。興味ない。」


「あ〜、そっか。」


一瞬、静かになる。


「まだ出会ったばっかりだもんね〜。でも、一緒にいる時間が増えれば、いつかは一緒にいたいって思う日が来るんじゃないかな!」


「……。」


カロリーナは歩き出した。オリビアは足を止めたまま、カロリーナに声をかける。


「…髪!邪魔だし、切ってもいい…かも。」


カロリーナはぱぁっと笑顔になって、オリビアをよく通っている美容院へ連れて行った。


一方ルイスとエディは、ルナの散歩をしつつ、溜まっているお金で旅に必要なものを買えるだけ買いに行っていた。


ルイスはルナを連れて市場へ、無人島などでも生活に困らないための用具を買う。エディは街の方へラム酒のお店に行った。市場へ向かう途中で、フィーカのお店を見つける。エディは立ち止まる。



「ただいま〜!」とカロリーナは元気に家に入った。


ルイスたちはもう家に着いていた。オリビアが見当たらず、ルイスは聞く。


「あれ?オリビアちゃんは?」


カロリーナは後ろを向いて、隠れているオリビアを引き連れる。


オリビアは髪をばっさり切った状態でルイスたちに見せる。二人はとても驚いた。


「ビアちゃん…その髪!」


「カロリーナさんが切れって言うから…。」


「そんな強引に言ってないよ〜?!」


オリビアは髪を触り、目を逸らしながら「変?」と恐る恐る聞いた。


「ううん!すっごく似合ってるよ!短い髪もかわいいね!」


ルイスは笑顔で言う。オリビアは照れて、さらに目を合わせづらくなる。


エディはオリビアに近づき、オリビアの髪を触る。


「ビアちゃん、元々髪サラッサラで綺麗だしなぁ?短い方がオレ好みかもぉ!」


「触らないで。」


オリビアはエディの手を払う。


カロリーナは大きく笑い、エディを慰める。


ルイスもその場で笑った。



スウェーデンで過ごす日々はあっという間に過ぎていき、クリスマス前日になった。


雪が降っていて、カロリーナの家では毎年、クリスマスは家族でゆっくり過ごすが、今年はルイスたちも一緒に過ごさせてもらうことになった。


家の飾り付けをしたり、クッキーやルッセカットを作ったり、夜には街に飾られたイルミネーションと大きいツリーを見に行ったり。


ディナーは、クリスマスハム、サーモンのマリネ、卵のオードブルと豪華で、ルイスたちは幸せそうに食べた。


ディナーが終わると、カロリーナは物置から楽器を出してきた。


「カロリーナちゃん、それは楽器?」


「うん!ニッケルハルパっていうの!」


エディはもうお酒に酔っていて、ヘロヘロになっている。


「リーナたん、楽器弾けるのぉ?!」


「へへ、ちょっとだけだけどね!」


カロリーナの母は言った。


「皆さんに聴かせてあげたら?」


カロリーナは頷いた。


北欧スウェーデンのクリスマス曲を弾いた。


ルイスたちはカロリーナの演奏に魅了された。


カロリーナの親は見つめ合って微笑んだ。


その瞬間をルイスは見て、懐かしいような気持ちになる。


弾き終わるとルイスたちは拍手をした。


エディは「宴だ〜!もういっちょ!リーナたん!」と言って、カロリーナは困りながらも違う曲を弾いた。


オリビアは調子のいいエディを見て、呆れていた。ルイスはオリビアに声をかける。


「どう?クリスマス、楽しい?」


「…悪くない。」


「だよね!僕、初めてエディ以外とクリスマスを過ごしたけど、大好きな人たちに囲まれるのって、こんなにも温かいんだね!クリスマスって、なんでこんなにも楽しい気持ちになるんだろう〜!」


ルイスは目を輝かせながら、エディたちを見る。


オリビアはそれを見つめる。



カロリーナたちは寝室に入った。オリビアとルナも部屋でゆっくり過ごしていた。ルイスとエディはリビングのソファでホットバタードラムを飲んでいた。


「どぉだ、るぅちゃん。美味いか?」


ルイスはラム酒を初めて飲むことから、エディは様子を伺っていた。


「甘いお菓子みたい…。体がポカポカするね!」


「だろぉ?ラムはバターとの相性が最っ高に良いんだよなぁ!初めて飲んだときゃあ、衝撃を受けたもんよぉ。」


エディはさっきより酔いはさめ、落ち着きながらも気持ちよく酔っている。


ルイスは「ふふ。」と静かに笑う。


エディはそれに気づき、「どうしたんだ?」と聞く。


「今年もクリスマス、楽しかったね!」


ルイスはエディを見て笑う。


「そうだなぁ?今回は特に、料理がすんげぇ美味かったしな!」


「うん!カロリーナさんたちにお礼を言わないとだね!」


二人は余韻に浸る。


「また来年も、クリスマス一緒に過ごせたらいいな!オリビアちゃんも一緒に。」


「はっ、当たり前だろ?ビアちゃんは分からねぇが、るぅちゃんとオレは来年も再来年も、死ぬまでずっと一緒だぜぇ?」


エディはルイスの肩を抱いた。


「うん!そうだね!はは、なんか僕たち、家族みたいだよね!」


少し間がある。


「家族…。あんた、家族がどんなもんかわかってんのかぁ?」


「んー、どうだろう。でも、僕たち家族がいないからさ、お互いの存在で寂しさを埋めている気がするんだ。僕エディがいないと、生きていけるか分からないな…。」


エディは固まる。ズボンのポケットにしまっていた、四角い箱を右手から取り出す。真面目な顔でルイスを見る。


「ルイス。」


「ん?」


ルイスとエディは見つめ合う。


エディは何かを言いたそうにしていて、ルイスはじっと待っている。


エディは声を出そうとした瞬間、動揺し、目を逸らした。四角い箱を後ろに隠す。


「…エディ?」


「…。い〜や?メリークリスマス!」


エディはいつもの笑顔に戻る。ルイスは異変に気づいたが、気のせいだろうと安心して「メリークリスマス!」と返した。


その後も、飲みながら旅の話をして、聖夜を過ごした。







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