11.灯台もと暗し

 その後ローレントとの話に区切りがついたのでユリアスは見習い従者の姿に戻って部屋を出た。


『自由になるために契約結婚って…矛盾してましゅ…』

「【人生は小説より奇なり】って言うでしょ?世の中そんな甘くないのよ…でも、私からしたらありがたい提案なの。オルタナ…どんな国なんだろう」

『オルタナは自然豊かな森や険しい岩山、砂漠等に面してる【ドラゴンの為の土地】になってましゅ』

「なるほど…自然豊かな森で生活するのも良いかもね…誰にも邪魔されず、文句も言われない静かな生活がしたいなぁ」

『良いと思いましゅね!でも女除けって響きは嫌でしゅ…』

「しょうがないよシルヴァ…でも、今から楽しみだね。契約だけど私に自由を与えてくれるんだから」

『あぅ…』


 こちらは誰かに恋するよりも自由になる事ばかり考えてる、自分勝手な人間だ、恋する乙女のような可愛い存在じゃない。


 むしろ、こんな自分勝手な自分をもらってくれるローレントに感謝しなくては…


 とりあえず、エルネストの元に戻ろう…シルヴァを抱き上げて先程の部屋に戻った。



 ーーーー

 ユリアスとローレントを部屋から出した後の頃、エルネストとエリスは作戦を考えていた。


「エリス、本気で皇太子妃になるなら僕とユリアス王女は全力で協力する。それに…薄々気付いてると思うけど…」

「はい…。ユリアス様は自由になりたがってます…アルベリク様との婚約も結婚も望んでない事から…だからローレント王子殿下を呼んだのですね」

「そう、彼女は自由を望んでるんだ…誰にも邪魔をされず、文句を言われない自由な生活を求めてる…。

 僕は最初から君こそ皇太子妃だって称えて彼女に無礼を働いた。でも…兄上に送られてきたユリミア王女の手紙を読んで…彼女ユリアスこそ真の被害者なんだって気付いた。


 肝心の兄上はユリミア王女の魅力を受けて心を奪われてしまった…。

 姿が無くても筆跡や贈り物にも効果が有る…執筆だけで相手を魅力しちゃうとか悪魔だよ…ホント」


「っ!…存在だけの魅力や洗脳だけでなく…姿が無くて出来てしまうなんて…っ!!」

「どうしたの?」


 何かを思い出したエリスは突然立ち上がった。

 しばらくすると座り直したが…異常に汗をかいてる…


「姿を見せなくても人の心を意図も簡単に奪ってしまう魔物に心当たりがございます!」

「えっ!?」

「蛇の魔女『アスリル』です!!美の女神『ユリーミア』様と敵対関係にあったとされる魔女と呼ばれてる【魔物】です!


 魔物なので繁殖します、恐らく女神ユリーミア様と戦っていた先祖の魔女の力を後継してる魔物がいるはずです…あるいは」

「魔女本人が輪廻転生した存在魔物って事か…」


「蛇はドラゴンが化けた姿と言われてますよね。元々魔女アスリルは【竜の巫女】だったんです。言わば、ヒトの姿をした眷属なんです」


「うん、続けて」


「はい。

 また。かなりの美女だったそうで、美の女神ユリーミア様と比較される事もよくあったそうです。本人は嫌がっていたそうです。全ての美の象徴に勝てる訳もない、比較されて良い気はしないと…。


 ですが、巫女アスリルが蛇の魔女と呼ばれる出来事が起きたんです。


 女神ユリーミア様が魔物に襲われてる蛇を助けたのですが、当時は神聖力が全ての神にあった訳では無かったので…ユリーミア様は蛇にかけられたモノを祓って巫女アスリルに渡したのです…が…」


「……」


「ユリーミア様の浄化は不完全だったんです。一時的に祓われてもアスリルの手に戻る頃には元に戻ってしまい、蛇は魔物になってしまい…巫女アスリルに噛みついたのです」


「っ!…」


 神秘の存在の眷属が魔物に噛まれた…眷属はあくまでも繋がる者、神秘の存在とは言いきれない。だから魔物の攻撃を受けたら…魔物になってしまう…



「魔物に噛まれたアスリルは瞬く間におぞましい姿に変わってしまったのです。

 美しい面影は何処にもなく、心は自分に魔物になった蛇を寄越してきたユリーミア様を恨む…負の感情で満たされてしまったのです」


「それでユリーミアと敵対関係になったのか…」



 悲しき魔女アスリルの真実…皮肉にも美しいと絶賛されるミア…ユリーミアの名を与えられた者に自分の力を与えたのだ…。


「なるほどね…前に聖書では見かけなかったって言ってたよね?どうして思い出したの?何か読んだの?」

「一時期、聖書と共に読んでた趣味の本を思い出したのです。

 神秘の存在、彼らに繋がる者等について書かれたモノでして…ワタシは神秘の存在について調べるのが好きな人間でして…」

「趣味がまさかの方向で役に立ったね…しかし蛇の魔女アスリルが神秘の存在の眷属だっとは…その時もアスリルだったの?」

「そうみたいです。彼女の主人であるドラゴンはあまり有名ではありませんが、特殊な力を持つ方だったそうです。

 それが…魅力や洗脳の元になったと言われる【催眠術】を持つドラゴンだったようです」

「【催眠術】を?つまり…それ系のドラゴンだったの?」

「いえいえ!とんでもない!催眠術と言ってもその方は【良い睡眠】を与える、安全な催眠術を使う方です!」

「ゴメンゴメン、失言だったよ。なるほど、眠りを与えてくれる方か、その眷属のアスリルには…」

「恐らく魔物になってしまった事で、誤った使い方をして【魅力】、【洗脳】を起こしたのでしょう…」

「なるほど…」


 元凶がわかっても、魔女アスリルを見つけ出さなくては解決しない…


 恐らくアスリルは討伐してもまた輪廻転生して事を繰り返すだけ…


 なら…彼女が救われる方法…求めてるのは…

 答えに辿り着いた2人は顔を見合せて頷いたのであった。


 ★☆★☆★

 そして現在

 しばらくするとユリアスが入ってきた。


「お帰り、ローレント王子とは話せた?」

「はい。協力してくれる事になりました」

「良かった…と言うべきかな。彼、言い方キツくなかった?」

「何とも無かったですが?」

「??」


 エルネストは気まずそうな顔をして続けた。


「あのね、ローレント王子は【女嫌い】で有有名でね…」

「へ、へぇ…」

「だ、だからワタシと話す時、少し嫌そうな顔をしてたのですね」

「うん、それで…嫌な事されなかった?」

「嫌な事…」


 思い当たる事は無い。ただ、エリスのような女性があのような契約を結ぶよう言われたら泣き出すだろう…

 しかしユリアスにとっては有り難すぎる契約だ…。


「……されて無いですね」

「「今の沈黙はなに!?」」

「いえ、なにもされてないです(契約結婚の事は言わない方が良いよね。言うなとは言われてないけど…何も知らない人に話したら頭大丈夫かって言われるだけ)」※大正解


 ユリアスは言える事だけを簡単に説明した。

 契約結婚の事は黙っておくことにした。



 その後、2人からミアの魅力の元凶について聞かされた。まさかの存在に驚くユリアスとシルヴァだった。



「諸説が本当なら魔女アスリルは浄化を望んでるはずだ。討伐しても無意味だろうね」

「ですがアスリルは魔女ではなく【魔物】です。魔物を倒してもばら蒔いたモノが消えるとは限りません…」

「ミアの方を止めれば何とかなるかもしれないけど、肝心のアスリルを見つけないと…そもそもアスリルは何処にいるのですか??この広い何処って言ったらキリがないですよ?」

「そこなんですよね…」


 元凶を探し出すなんて…想像したくない。見つける前に自分達が命を落とす未来しか見えない。


 その後、細かい事も話し合ってこの日を終えたのだった。

 作戦会議だけで1日が終わってしまった…


 身近な所に思わぬ情報がある…吉とでるか凶とでるか…

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